2022/11/30

楽しかったね 春のけはいの風がきて千年も前のたれかの結語/井辻朱美

 楽しかったね 春のけはいの風がきて千年も前のたれかの結語/井辻朱美

短歌タイムカプセルより

やわらかい風なんだろうなって思った。千年も前も、
人の営みがあって、当たり前なんだけど、何だか想像できなくて。
風で季節を感じるのは、きっと昔も今も変わらない。
遥か昔の事だけど、誰かに伝わっていく。
たれか、とここだけ古語なのが、想いを馳せるようで好きだ。

2022/11/29

登校日 すべすべした手でかえされたMONO消しゴムのOが●/伊舎堂仁

 登校日 すべすべした手でかえされたMONO消しゴムのOが●/伊舎堂仁

短歌タイムカプセル より

何か色々思い出す歌。登校日はなかったけど。こういういたずら、
よくあったよね。貸した教科書に落書きとか。ちょっと微笑ましい。
貸したことを忘れてたのかな。すべすべした手と消しゴムと、
ロゴの○と爪が重なって、手だけが浮かび上がってきれいだ。
きれいな思い出。


2022/11/28

水鳥が羽を動かす場面のみ無音の映画 これはかなしみ/石川美南

 水鳥が羽を動かす場面のみ無音の映画 これはかなしみ/石川美南

短歌タイムカプセル より

うろ覚えだけど、視覚障害者のために、確かりアルタイムで
音声を入れる実証試験を見た。目で見れば、言わなくても
伝わるシーンが、音声だけだと、訳が分からなくなる。
きっと印象的なシーンだろう。隠喩って難しいな。
直喩でさえ間違えるのに。感受性が足りないんだな。


2022/11/27

マンションの深き疲れを癒すべく高き足場が組まれてゆけり/池田はるみ

 マンションの深き疲れを癒すべく高き足場が組まれてゆけり/池田はるみ

短歌タイムカプセルより


マンションの修繕工事。深き疲れと擬人化されて、
足場を組む人が逆に無機質に感じられてくる。
マンションを包み込むように組まれてゆく足場。
深さと高さの対比でなるほど癒されていくような気がする。
深き、がいいな。老朽化、とまでは言えない、言いたくない年月。


2022/11/26

雪まみれの頭をふってきみはもう絶対泣かない機械となりぬ/飯田有子

 雪まみれの頭をふってきみはもう絶対泣かない機械となりぬ/飯田有子

短歌タイムカプセルより

雪の冷たさと機械の冷たさが重なっていく。眼差しは強いけど、
自らの意志ではなく、そうならざるを得ない状況に
なってしまったんだろう。雪まみれになるまで、どんな思いでいたのか。
頭をふる強さはどれほどのものだったんだろう。
心が遠くなる。強さが悲しい。




2022/11/25

ずいずいと悲しみ来れば一匹のとんぼのように本屋に入る/安藤美保

 ずいずいと悲しみ来れば一匹のとんぼのように本屋に入る/安藤美保

『短歌タイムカプセル』より


ずいずい。後ろから押されるような?向こうから
ぶつかってくる感じかな。きっと自分でうまく消化できなくて、
とんぼのようにすいっと本屋に入るんだ。無意識に、本能のように、
ここが羽を休める所だと知っている。
とんぼの羽の透明さに悲しみが乗っているみたいだ。


2022/11/23

風邪ですかええまあなどと曖昧にパジャマ姿で過ぎてゆく午後/荻原裕幸

 風邪ですかええまあなどと曖昧にパジャマ姿で過ぎてゆく午後/荻原裕幸

歌集『永遠よりも少し短い日常』より

何となく過ぎてしまう休日あるある。
とりあえず着替えなきゃって思ってるのにずるずると。
そんな時に限って来客。カーディガンを雑に羽織ってみたり。
この曖昧さ、 がいいなあ。相手はきっと気付いてて気まずいよねえ。
何もしてない、出来なかった後悔と罪悪感。






2022/11/22

ひとつづつ灯り消えゆき晩年といふ闇をゆく旅人かわれ/山埜井喜美枝

 ひとつづつ灯り消えゆき晩年といふ闇をゆく旅人かわれ/山埜井喜美枝

現代短歌文庫より

こうやって年を取っていくのかな。出来ることが出来なくなって、
親しい人との別れが増えて。やっぱり闇なんだろうか。
確かに明るくはないかもしれない。それでも進んでゆくんだ。
その先が闇であっても旅人でいたい。人間の尊厳かな。
どうして彼女はこんなに美しいんだろう。


2022/11/19

屋久島の森に置かれたマイクから配信される雨音を聞く/嶋稟太郎

 屋久島の森に置かれたマイクから配信される雨音を聞く/嶋稟太郎

歌集『羽と風鈴』 より

思わず調べた。同じものかは分からないけど、これは良い。
一日中流しておけるやつだ。この歌集の凄いところは、
自分には無い視点で物を見てるのに、自分も同じ目線で
風景が見えてくるところ。同じ所で同じ物を見ているような
気持ちになる。新しい景色と出会う。


2022/11/18

雪かきをだれがするので殴りあう春には消える雪のことで/雪舟えま

 雪かきをだれがするので殴りあう春には消える雪のことで/雪舟えま

歌集『たんぽるぽる』より

本当に馬鹿馬鹿しいなと思うけど、何というかまぁ、
死活問題だよね…。家庭内で殴りあってるなら、
どうぞご自由にって感じだけど、ご近所や行政が絡んでくると
面倒臭い…。そんな季節が近付いてきたなぁ…。
今年も雪が多そうで、考えただけでうんざりする。


2022/11/17

明るくてかげりがあつて十二月が近づいてゐて誰もゐなくて/荻原裕幸

 明るくてかげりがあつて十二月が近づいてゐて誰もゐなくて/荻原裕幸

歌集『永遠よりも少し短い日常』より

今朝カーテンを開けたらうっすら雪が積もってて、まさにこんな感じだった。すぐとけるんだけど明るくて、何だろう、ついに冬が来たな、みたいな。十二月に入ると本当に忙しくて焦るんだけど、今時期は色々考えるのが楽しかったり、急に淋しくなったり、気持ちが忙しい。




2022/11/16

世界が今壊れていくのにこんなにも静かな午後の十字路である/内藤明

 世界が今壊れていくのにこんなにも静かな午後の十字路である/内藤明

短歌研究2022年9月号より

じわじわと心を抉られてゆくような三十首。見えてる不安と
見えない不安、見えないふりをしている不安。きっとみんな
気付いてて、でも何も変わってないような気がするんだ。
むしろ自分だけが壊れていくような静かさ。
十字路を世界や自分や他人が交差している。


2022/11/15

このさきは未来のひとにまかせたい幸福なときのあたしはよわい/雪舟えま

 このさきは未来のひとにまかせたい幸福なときのあたしはよわい/雪舟えま

歌集『たんぽるぽる』より

何か凄いね。誰かに何かを委ねるのって、確かに自分に
余裕がある時じゃないと出来てない気がする。
自分が不幸だと思ってる時は、自分の事に必死でいっぱいいっぱいで、
ある意味強かったかも。幸福なときの弱さは優しい。
ちょっと自分をダメにもする。未来の不確かさが怖い。


2022/11/11

早馬に駆けぬけゆきし四十男しじふをとこチェーホフ、漱石、三島、寺山/山埜井喜美枝

早馬に駆けぬけゆきし四十男しじふをとこチェーホフ、漱石、三島、寺山/山埜井喜美枝

現代短歌文庫より

そっかぁ。漱石も四十代だったか。何て言うか、四十代って
死が近いなって急に思うよ。まだ寿命には遠いけど、
夭折と言う程若くもない気がする。この死が近いという感覚は、
どう言えば伝わるんだろうな。まだまだ若いよね。
駆けぬけてゆく人ばかりだ。