2025/12/22

[今日の短歌/岡崎裕美子]鳴らぬもの集めてまわる男いてそのトラックに我も乗りたし

 鳴らぬもの集めてまわる男いてそのトラックに我も乗りたし/岡崎裕美子

短歌タイムカプセルより

廃品回収のトラックかな、自分も回収されたいのかな、と思ったけど、
一緒に集めてまわる方かもしれない。何となく、鳴らぬものが
ならず者に見えてきたり、普段乗る機会のないトラックで
知らない遠くへ行ってしまいたいのかと思ったり。
この人の歌はいつもザワザワする。




2025/12/21

[今日の短歌/岡井隆]天に向き直立をするぼくの樹よお休みなさいな 夜が来てゐる

 天に向き直立をするぼくの樹よお休みなさいな 夜が来てゐる/岡井隆

短歌タイムカプセルより

まっすぐな人柄を思うよ。お休みなさいなに柔らかな
優しさを感じられるのが良い。「な」を取れば、定形で収まるけど
そうすると結句がきつく感じる。急かされてるというか。
「な」がクッションになって、安心感が出て夜を穏やかに
迎えられそうな気がするんだ。





2025/12/20

[今日の短歌/大森静佳]かろうじてそれはおまえのことばだが樹間を鳥の裸身が揚がる

 かろうじてそれはおまえのことばだが樹間を鳥の裸身が揚がる/大森静佳

短歌タイムカプセルより

上の句にどきりとする。私はいつだって私のことばが本当に
自分の内から出てるのか、聞こえの良いことばを
並べてるだけじゃないかとことばに確信が持てない。
下の句の鳥は、本当に鳥だろうか。裸身とはどういうことだろう。
樹間に揚がるそれは、幻のようにどこかおぼろげだ。




2025/12/19

[今日の短歌/大松達知]支援物資のなかに棺のあることを読みてたちまち一駅過ぎつ

 支援物資のなかに棺のあることを読みてたちまち一駅過ぎつ/大松達知

短歌タイムカプセルより

そんなものを送りたいわけじゃないと一瞬思ったあと、
そうしないと生きてる人の心が救われないのだと気付いて、
自分の浅はかさ、偽善を恥じた。釘付けになる内容の一文。
周りが見えなくなるほどの没入感。息がつまるというか。
たちまちだけど、長い長い時間と思う。







2025/12/18

[今日の短歌/大西民子]亡き人のショールをかけて街行くにかなしみはふと背にやはらかし

 亡き人のショールをかけて街行くにかなしみはふと背にやはらかし/大西民子

短歌タイムカプセルより

その人との思い出、というよりは、温もりという感じがする。
形見なんだろうけど、日常使いしていて、それを忘れている。
あ、違うな。一緒に出掛けるような気持ちか。
「背にやはらかし」。まさに肩を抱いて包み込んでくれるような
ショールの温もり。かなしみ以外を思い出す





2025/12/17

[今日の短歌/大辻隆弘]蜂蜜のよどみのやうな残光といへりそれさへつかのまにして

 蜂蜜のよどみのやうな残光といへりそれさへつかのまにして/大辻隆弘

短歌タイムカプセルより

何だろう。ちょっとした違和感だろうか。残光だから、
つかのまなのは当然ではないのか。ざらつくようなよどみも、
過ぎてしまえば何事もなかったかのように消えて忘れるだろうか。
「それさへ」ということは、他にも?気付かぬふりをして
やり過ごすような後ろめたさを感じる。





2025/12/15

[今日の短歌/大塚寅彦]生没年不詳の人のごとく坐しパン食みてをり海をながめて

 生没年不詳の人のごとく坐しパン食みてをり海をながめて/大塚寅彦

短歌タイムカプセルより

生没年不詳の人って謎だなぁと思ったけど、
見ず知らずの他人ってそんな感じかもなと考えると、
誰にも見つからず、世間からも離れてしまったかのような孤独感と
捉えることは無理があるだろうか。海というのも孤独を増す。
どこから来てどこへ行くのか。生きる為の「パン食みてをり」なんだろう。






2025/12/14

[今日の短歌/大滝和子]さみどりのペディキュアをもて飾りつつ足というは異郷のはじめ

 さみどりのペディキュアをもて飾りつつ足というは異郷のはじめ/大滝和子

短歌タイムカプセルより

ああ、こういう歌を読むたびに、私はちゃんと
自分の足で立っていないのだなと感じてしまう。
ペディキュアを塗るその足が、ひどく眩しいのだ。
さみどりが柔らかな草を思わせて、その足で地を踏んで、
どこへでも行ける。踏み出せば、そこが異郷のはじめだと、
都合良く解釈しても良いだろうか。





2025/12/13

[今日の短歌/大口玲子]わが一生ひとよいつどこで鬼と逢へるらむその日のために化粧を濃くす

 わが一生(ひとよ)いつどこで鬼と逢へるらむその日のために化粧を濃くす/大口玲子

短歌タイムカプセルより

できれば鬼には逢いたくないなぁ。素顔を、本心を
見せないための化粧か、それとも、見つけてもらうための
濃い化粧なのか。「逢へるらむ」に漂う仄かな期待。
「化粧を濃くす」に感じられる畏怖の念。昔から人間が一番恐ろしいと言う。
その化粧を見る私が鬼なのかもしれない。





2025/12/12

[今日の短歌/江戸雪]うしなった時間のなかにたちどまり花びらながれてきたらまたゆく

 うしなった時間のなかにたちどまり花びらながれてきたらまたゆく/江戸雪

短歌タイムカプセルより

こうやって立ち直っていくんだな。うしなった時間は戻らなくて、
それでもあの時こうだったら、こうしてれば、と思うこともある。
そうやってたちどまり、気持ちと折合いがついたら
花びらがながれてくるのでしょう。「また」という繰り返し。
そうやって日々を歩いてゆく。