2021/10/31

チャリが来た 避けようとして傾いたオレと真夏の草のふれあい/工藤吉生

 チャリが来た 避けようとして傾いたオレと真夏の草のふれあい/工藤吉生

短歌研究2021年11月号より

多分、狭い道で、ふれた草も雑草なんだろうけど、
ありふれた風景が急に色付いていくような、はっとする
美しさのある歌だなと思った。自転車が通り過ぎて受ける風とか、
うっとうしいような濃い緑が真夏の一言で鮮やかになる。


2021/10/21

思い出に降ってくる雨晴らそうとまずは蛇口を締めてまわった/笹井宏之

 思い出に降ってくる雨晴らそうとまずは蛇口を締めてまわった/笹井宏之

歌集『ひとさらい』より

心情を思うよね。きっと思い出したら泣けてくるようなことで、
雨は降らないでほしい。降ってはいない。降ってこないように
蛇口を閉じたら、思い出は今まで通りでいられるのかな。
「まわった」ということは一つじゃない。忘れたくないけど
思い出すと辛い。亡くなった人との思い出と感じた。


2021/10/20

こころから吹き込む雪の夜だからペチカ燃えろよ記憶を焼べて/山階基

 こころから吹き込む雪の夜だからペチカ燃えろよ記憶を焼べて/山階基

短歌研究2021年10月号より

こころから吹き込む雪は相当冷たいだろうなと思う。
そこに焼べる自分の記憶。ペチカの炎とレンガの暖かさ、
吹き込む寒さ。燃えた記憶は熱となって自分を温めるのかな。
じわりじわりと温まるような。静かな夜で、
パチパチと焼べる音が聞こえてきそう。


2021/10/17

縦笛は横笛よりもなめらかに怒りの河を流れてゆける/大森静佳

 縦笛は横笛よりもなめらかに怒りの河を流れてゆける/大森静佳

短歌研究2021年2月号より

縦笛は学校で習うあれ、横笛はフルートが思い浮かんだので、
何となく繊細なイメージのフルートより縦笛の方が
怒りに合ってるなと納得した。怒りの河って何だろう。
自分自身への怒りか、世の中や他者への怒りか。
他者へのじゃなくて、他者かな。なめらかが怒りを中和してる。


2021/10/16

ファスナーは布を噛みたり寒き夜に枕カバーを取り替へゆけば/栗木京子

 ファスナーは布を噛みたり寒き夜に枕カバーを取り替へゆけば/栗木京子

短歌研究2021年2月号より

この歌を読んで、短歌ってミュージカルみたいだなと思った。
今までも何気ない日常の歌を書写してるけど、この歌は
生活そのものというか、でも何かはっとするような。
布がかんだ事で手が冷えてかじかんでいたのに気付いたのかな、とか。
言葉にするのが難しい…。


2021/10/15

雨後の街は金魚のにおいばかりする こころの外へ僕を出さねば/笹川諒

 雨後の街は金魚のにおいばかりする こころの外へ僕を出さねば/笹川諒

短歌研究2021年7月号より

分かりそうで分からない不思議な歌。雨上がりの街。
金魚鉢のように窮屈なんだろうか。雨後の街は自分の心か。
しめったまま、悪いことばかりを考えてしまう。
洗い流してくれる筈の雨は泥水となって溜まってしまったんだろうか。
もがくような悩みを感じる。


2021/10/08

初物の桃をふたりで食べたこと甘く苦しくこの喉にある/千種創一

 初物の桃をふたりで食べたこと甘く苦しくこの喉にある/千種創一

短歌研究2021年9月号より

桃なのがいいよね。瑞々しく甘い思い出と同時に、
過ぎてしまった後悔も喉に残ってる。甘さが先に来て、
喉に引っかかるような痛み。酸いも甘いもと言うけれど、
そんな歳月を過ごして来たのかな。切ない思い出。
千種さんの歌は言葉が綺麗。情景が目に浮かぶ。


2021/10/02

泣かずとも私は私に沿うだろう花瓶にたっぷり水をそそいで/塚田千束

 泣かずとも私は私に沿うだろう花瓶にたっぷり水をそそいで/塚田千束

短歌研究2021年10月号より

しっかりとした芯を感じる歌だ。自分をなぐさめる術を知っている。
自問自答しながら、花瓶の水を満たしていく。寄り沿って寄り沿って。
何かうまく言えないな。泣くべきだったのかもしれない。
でも泣かない、泣けない自分を知っている。
たっぷりの水はいつかこぼれるのかもしれない。