2025/12/31

[今日の短歌/加藤治郎]だからもしどこにもどれば こんなにも氷をとおりぬけた月光

 だからもしどこにもどれば こんなにも氷をとおりぬけた月光/加藤治郎

短歌タイムカプセルより

何だか怖いな。上の句と下の句の落差というか。ちょっと違うな。
薄氷と気付いていながら言い訳を重ねてるような。書けば書くほど
何か違うとずれていく…。一字空けは、上の句の言葉が
とおりぬけたからか。とおりぬけなければ、
月光は何を残したのだろう。冷たくて痛い。


2025/12/30

[今日の短歌/春日井建]早朝ののみどをくだる春の水つめたし今日も健やかにあれ

 早朝ののみどをくだる春の水つめたし今日も健やかにあれ/春日井建

短歌タイムカプセルより

春の水は雪解け水を思わせる。そのイメージで、早朝のまぶしさや
清らかな水のつめたさが鮮やかになる。「のみどをくだる」から
「健やかにあれ」の水の流れが、自分事から外に向かっていくような、
自分だけの祈りではないような、朝の光の透明さがどこか物悲しい。


2025/12/27

[今日の短歌/香川ヒサ]闇が濃くなりゆくばかり眠らむとする者は部屋を暗くするから

 闇が濃くなりゆくばかり眠らむとする者は部屋を暗くするから/香川ヒサ

短歌タイムカプセルより

眠れない自分と、寝ようとしてる家人、と思ったけど
違う気がする…。何だろう、自分だけが暗く闇にのみこまれそうな
怖さがあるよね。「眠らむとする者」は、もしかして
死にゆく人のことだろうか。それならば、闇が濃くなることも、
部屋を暗くするのも分かる気がする。


2025/12/26

[今日の短歌/小野茂樹]感動を暗算し終へて風が吹くぼくを出てきみにきみを出てぼくに

 感動を暗算し終へて風が吹くぼくを出てきみにきみを出てぼくに/小野茂樹

短歌タイムカプセルより

分かち合うってこういうことを言うんだろうね。
時が止まったような、暗算し終えるまでの時間。巡るような
風の流れ。結句で戻ってくる風は、もうぼくのではなく、
きみの感動を含んでいる。それが嬉しい。
嫌な見方をすれば、それを計算してた?きっと風は計算違い。


2025/12/25

紅梅は濃く薫りゐて白梅の標本木のしづかなりける/真中朋久

 紅梅は濃く薫りゐて白梅の標本木のしづかなりける/真中朋久

現代の歌人140より

紅梅のほうが早く咲くんだねえ。そして標本木は白梅ということも
初めて知った。色々調べると「色は紅梅、香りは白梅」らしい。
改めてこの歌を読むと、紅梅の薫りが色となって浮き立ってくるし、
これから咲く日梅の意りがしづかに漂ってくる。
わぁ、素敵な歌だなぁ。


[今日の短歌/奥村晃作]少年が引き連れて冬の夜の空の星を見に行く家族四人で

 少年が引き連れて冬の夜の空の星を見に行く家族四人で/奥村晃作

短歌タイムカプセルより

日々の出来事が短歌になるのって素敵。そして私は
ぼんやり生きてるなと反省する。日記とは違う思い出になるなと思う。
ところでこの少年に息子さんでいいのかな。書き写しながら、
ふと家族ではないかも?と思ったり。
少年という響きが良いのかな。夜の道がぱっと明るくなる。


2025/12/24

[今日の短歌/荻原裕幸]十二色のいろえんぴつしかないぼくに五十五色のゆふぐれが来る

 十二色のいろえんぴつしかないぼくに五十五色のゆふぐれが来る/荻原裕幸


短歌タイムカプセルより

十二色あれば、表現できない色はないという。それでも
たくさんの色があれば幅が広がるのではないかと思ってしまう。
そんな五十五色。明確な色があるのに、自分ではうまく作れない。
すぐに取り出せる一本があったとして、
イメージ通りとは限らないと思うのは負け惜しみだろうか。





2025/12/23

[今日の短歌/岡野大嗣]ともだちはみんな雑巾ぼくだけが父の肌着で窓を拭いてる

 ともだちはみんな雑巾ぼくだけが父の肌着で窓を拭いてる/岡野大嗣

短歌タイムカプセルより

昭和のおばさんなので、雑巾はそういうものだろうと思うけど、
子供心には厳しいよねぇ。案外自分以外にも以たような子は
いたと思うけどなぁ。今なら雑巾をわざわざ縫ったりしないのかな。
今気付いたけど、まさか本当に肌着のまま持って行ってる?
さすがにそれはないよね?





2025/12/22

[今日の短歌/岡崎裕美子]鳴らぬもの集めてまわる男いてそのトラックに我も乗りたし

 鳴らぬもの集めてまわる男いてそのトラックに我も乗りたし/岡崎裕美子

短歌タイムカプセルより

廃品回収のトラックかな、自分も回収されたいのかな、と思ったけど、
一緒に集めてまわる方かもしれない。何となく、鳴らぬものが
ならず者に見えてきたり、普段乗る機会のないトラックで
知らない遠くへ行ってしまいたいのかと思ったり。
この人の歌はいつもザワザワする。




2025/12/21

[今日の短歌/岡井隆]天に向き直立をするぼくの樹よお休みなさいな 夜が来てゐる

 天に向き直立をするぼくの樹よお休みなさいな 夜が来てゐる/岡井隆

短歌タイムカプセルより

まっすぐな人柄を思うよ。お休みなさいなに柔らかな
優しさを感じられるのが良い。「な」を取れば、定形で収まるけど
そうすると結句がきつく感じる。急かされてるというか。
「な」がクッションになって、安心感が出て夜を穏やかに
迎えられそうな気がするんだ。





2025/12/20

[今日の短歌/大森静佳]かろうじてそれはおまえのことばだが樹間を鳥の裸身が揚がる

 かろうじてそれはおまえのことばだが樹間を鳥の裸身が揚がる/大森静佳

短歌タイムカプセルより

上の句にどきりとする。私はいつだって私のことばが本当に
自分の内から出てるのか、聞こえの良いことばを
並べてるだけじゃないかとことばに確信が持てない。
下の句の鳥は、本当に鳥だろうか。裸身とはどういうことだろう。
樹間に揚がるそれは、幻のようにどこかおぼろげだ。




2025/12/19

[今日の短歌/大松達知]支援物資のなかに棺のあることを読みてたちまち一駅過ぎつ

 支援物資のなかに棺のあることを読みてたちまち一駅過ぎつ/大松達知

短歌タイムカプセルより

そんなものを送りたいわけじゃないと一瞬思ったあと、
そうしないと生きてる人の心が救われないのだと気付いて、
自分の浅はかさ、偽善を恥じた。釘付けになる内容の一文。
周りが見えなくなるほどの没入感。息がつまるというか。
たちまちだけど、長い長い時間と思う。







2025/12/18

[今日の短歌/大西民子]亡き人のショールをかけて街行くにかなしみはふと背にやはらかし

 亡き人のショールをかけて街行くにかなしみはふと背にやはらかし/大西民子

短歌タイムカプセルより

その人との思い出、というよりは、温もりという感じがする。
形見なんだろうけど、日常使いしていて、それを忘れている。
あ、違うな。一緒に出掛けるような気持ちか。
「背にやはらかし」。まさに肩を抱いて包み込んでくれるような
ショールの温もり。かなしみ以外を思い出す





2025/12/17

[今日の短歌/大辻隆弘]蜂蜜のよどみのやうな残光といへりそれさへつかのまにして

 蜂蜜のよどみのやうな残光といへりそれさへつかのまにして/大辻隆弘

短歌タイムカプセルより

何だろう。ちょっとした違和感だろうか。残光だから、
つかのまなのは当然ではないのか。ざらつくようなよどみも、
過ぎてしまえば何事もなかったかのように消えて忘れるだろうか。
「それさへ」ということは、他にも?気付かぬふりをして
やり過ごすような後ろめたさを感じる。





2025/12/15

[今日の短歌/大塚寅彦]生没年不詳の人のごとく坐しパン食みてをり海をながめて

 生没年不詳の人のごとく坐しパン食みてをり海をながめて/大塚寅彦

短歌タイムカプセルより

生没年不詳の人って謎だなぁと思ったけど、
見ず知らずの他人ってそんな感じかもなと考えると、
誰にも見つからず、世間からも離れてしまったかのような孤独感と
捉えることは無理があるだろうか。海というのも孤独を増す。
どこから来てどこへ行くのか。生きる為の「パン食みてをり」なんだろう。






2025/12/14

[今日の短歌/大滝和子]さみどりのペディキュアをもて飾りつつ足というは異郷のはじめ

 さみどりのペディキュアをもて飾りつつ足というは異郷のはじめ/大滝和子

短歌タイムカプセルより

ああ、こういう歌を読むたびに、私はちゃんと
自分の足で立っていないのだなと感じてしまう。
ペディキュアを塗るその足が、ひどく眩しいのだ。
さみどりが柔らかな草を思わせて、その足で地を踏んで、
どこへでも行ける。踏み出せば、そこが異郷のはじめだと、
都合良く解釈しても良いだろうか。





2025/12/13

[今日の短歌/大口玲子]わが一生ひとよいつどこで鬼と逢へるらむその日のために化粧を濃くす

 わが一生(ひとよ)いつどこで鬼と逢へるらむその日のために化粧を濃くす/大口玲子

短歌タイムカプセルより

できれば鬼には逢いたくないなぁ。素顔を、本心を
見せないための化粧か、それとも、見つけてもらうための
濃い化粧なのか。「逢へるらむ」に漂う仄かな期待。
「化粧を濃くす」に感じられる畏怖の念。昔から人間が一番恐ろしいと言う。
その化粧を見る私が鬼なのかもしれない。





2025/12/12

[今日の短歌/江戸雪]うしなった時間のなかにたちどまり花びらながれてきたらまたゆく

 うしなった時間のなかにたちどまり花びらながれてきたらまたゆく/江戸雪

短歌タイムカプセルより

こうやって立ち直っていくんだな。うしなった時間は戻らなくて、
それでもあの時こうだったら、こうしてれば、と思うこともある。
そうやってたちどまり、気持ちと折合いがついたら
花びらがながれてくるのでしょう。「また」という繰り返し。
そうやって日々を歩いてゆく。







2025/12/11

[今日の短歌/梅内美華子]銀髪の婦人のやうな冬の日が部屋に坐しをりレースをまとひ

 銀髪の婦人のやうな冬の日が部屋に坐しをりレースをまとひ/梅内美華子

短歌タイムカプセルより

しんしんと降る雪の日だなぁと思ったけど、部屋に、なので、
冬の細い日差しが木洩れ日のように部屋を照らしているのかも。
柔らかな影がレースのように見えてくる。そこに人は居ないのに、
椅子に座ってレース編みをする、銀髪の婦人の姿が浮かんでくるのだ。




2025/12/10

[今日の短歌/内山晶太]頭よりシーツかぶりて思えりきほたるぶくろのなかの暮らしを

 頭よりシーツかぶりて思えりきほたるぶくろのなかの暮らしを/内山晶太

短歌タイムカプセルより

メルヘンの世界だなぁと思うけれども、そういうことを
想像する時間は、案外心の安定のために必要なんじゃないか。
現実逃避と言われればそれまでかもしれないけど。
毛布や布団じゃなく、シーツなのがいいよね。
ほんのり透けるような、外との暮らしを繋いでもいる。





2025/12/09

[今日の短歌/伊藤一彦]三割がPTSDといふ帰還兵 残る七割の「正常」思ふ

 三割がPTSDといふ帰還兵 残る七割の「正常」思ふ/伊藤一彦

短歌タイムカプセルより

何をもって「正常」と言えるのだろう。たとえ正常だとしても、
きっと以前と同じようには戻れない。何事もなかったように
過ごせるものなんだろうか。そう思うこと自体が間違っているのかな。
誰しもが、見えない思いを抱えて何でもない顔でやりすごしてゆく。





2025/12/08

[今日の短歌/井辻朱美]映すものの意味もわからずいつの日か蒸発してゆくすべての水たまり

 映すものの意味もわからずいつの日か蒸発してゆくすべての水たまり/井辻朱美

短歌タイムカプセルより

自分の生き方を言われたみたいでドキッとする。
何も、誰も気にせず通り過ぎて蒸発してゆく水たまり。
でも一部しか映らないその風景に意味なんてあるんだろうか。
意味がわかったところで、何ができるというのだろう。
そうやって考える事を放棄して蒸発してゆくのかな。






2025/12/07

[今日の短歌/伊舎堂仁](屋上の)(鍵)(ください)の手話は(鍵)のとき一瞬怖い顔になる

 (屋上の)(鍵)(ください)の手話は(鍵)のとき一瞬怖い顔になる/伊舎堂仁


短歌タイムカプセルより

「かぎ」の「ぎ」でくいしばる感じになるからかな?と思ったけど、
生まれつきのろう者だとあまり口の動きはないらしい。
となると、その人の癖なのかなと。その一瞬に目が行く、
見のがさないのも良く見ていて凄い。手話という言語の雰囲気が
柔らかくこちらに伝わってくる。





2025/12/06

[今日の短歌/石川美南]丁寧に折り畳まれてゐる海を記憶に頼りながら広げよ

 丁寧に折り畳まれてゐる海を記憶に頼りながら広げよ/石川美南

短歌タイムカプセルより

大切な思い出なんだなと思いながら読んだ。
そのまま海の記憶かと思ったけど、そうとは限らないか。
広げる様は波のようだし、そこから思いがけず呼び戻される記憶も
あるのではないか。折り畳まれた海が、大海原になってゆく。
それは過去と向き合うことでもあるのだろうか。





2025/12/05

[今日の短歌/池田はるみ]風切つて歩いてゐるがガニ股になつてゐるのも知つてゐるわい

 風切つて歩いてゐるがガニ股になつてゐるのも知つてゐるわい/池田はるみ

短歌タイムカプセルより

「風切って」には喜怒哀楽どれでも当てはまるなと。
少し周りが見えないというか、あえて遮断してるというか。
かっこ悪い自分を分かってもいる。他人からどう見られるか
なんてことを考えて、自分の気持ちを後回しにはしない。
無意識に出ちゃう直したい癖でもあるのかなぁ。






2025/12/04

[今日の短歌/飯田有子]のしかかる腕がつぎつぎ現れて永遠に馬跳びの馬でいる夢

 のしかかる腕がつぎつぎ現れて永遠に馬跳びの馬でいる夢/飯田有子

短歌タイムカプセルより

「延々に」ではなく「永遠に」なんだなと思うと、
とたんに目の前が暗くなって、悪夢だと感じる。
ずっと抜け出せない馬跳びの馬。うつむいているので誰か分からない。
背中に感じる腕は、本当に腕だろうか。反発心といらだちが
自分にも他者にも向けられている。





2025/12/03

[今日の短歌/安藤美保]メリノウールほどの手触り午後二時をそろりと生きて窓の内にいる

 メリノウールほどの手触り午後二時をそろりと生きて窓の内にいる/安藤美保

短歌タイムカプセルより

メリノウールのもちもちふわふわは心が安まるよ。
何か事情があって外に出られないのかな。社会との隔たりを感じた。
いや、そこまでではなく、皆が働いてる時間に家に居ることの
優越感かもしれない。そろりと生きて、という、
息を潜めるような静かな時間が手触りになる。






2025/12/02

[今日の短歌/永田紅]どこへ向けて歩いていてもああ君は引き返そうとは言わなかったね

 どこへ向けて歩いていてもああ君は引き返そうとは言わなかったね/永田紅

現代の歌人140より

もう追い付けない人なんだろうね。どんどん先へ進んで
遠ざかっていく人。どこへ「向かって」ではなく「向けて」なんだな。
引き返そうと言ってほしかった。試すように向けた道を
君は分かっていたのかも。言わなかったのは心が離れていたからか。
ああ、に全てがつまってる。




2025/12/01

[今日の短歌/斉藤斎藤]泣いてるとなんだかよくわからないけどいっしょに泣いてくれたこいびと

 泣いてるとなんだかよくわからないけどいっしょに泣いてくれたこいびと/斉藤斎藤

現代の歌人140より

良いこいびとじゃない、と思ったけど泣いてる理由が
実は花粉症で…とか、感情とは関係ないことだったのかしら。
「なんだかよくわからないけど」がだんだん自分にもかかってきて、
泣いてることだけがそこに浮いてる感じ。
「泣」以外ひらがななのも、ふわふわして混乱を増す。