2022/12/27

いつの世もおまへの味方 雪を抱きとめる象(かたち)にしばれる蝦夷松/柳澤美晴

 いつの世もおまへの味方 雪を抱きとめる象(かたち)にしばれる蝦夷松/柳澤美晴

歌壇2022年1月号 より

そんな風に見た事はなかった。言われれば、確かに重い雪を
落とすことなく抱きとめている。上の句がいいな。
最後まで引き込まれる。しばれるエゾ松。音が聞こえてきそう。
寒い冬にはげましてくれるような、心強い歌だ。


洗ふ手はしばしばもそこにあらはれたり眩しき冬の蛇口のもと/葛原妙子

 洗ふ手はしばしばもそこにあらはれたり眩しき冬の蛇口のもと/葛原妙子

短歌タイムカプセルより

どの歌も難しい・・・。蛇口に洗う手が反射してるのかなって
思ったけど、現れる、じゃなくて洗われる、なのかな。
洗う手と冬の蛇口は、しんとした冷たい朝の空気を想像して
いいなと思った。何度も読んでたらいつか分かる日が来るかな。
どの歌も静寂だ。


2022/12/26

悲歌うたふ人の咽(のみと)の動きして流るる河を見てをりけふも/紀野恵

 悲歌うたふ人の咽(のみと)の動きして流るる河を見てをりけふも/紀野恵

短歌タイムカプセルより

読むときにつっかかって、全然ピンとこなくて、読み直したら
ばーって目の前に河が広がって驚いた。穏やかな日も嵐のあとも
悲歌をうたっているんだろうか。この人にとって河は生活の一部で、
自分の一部でもあるのかな。無意識のうちに
自分を支えているものの存在感。


2022/12/25

自販機のひかりまみれのカゲロウが喉の渇きを癒せずにいる/木下龍也

 自販機のひかりまみれのカゲロウが喉の渇きを癒せずにいる/木下龍也

短歌タイムカプセルより

夜の自販機、立ちつくす自分、ボタンから動かないカゲロウ。
喉の渇きを癒せないのはカゲロウも一緒か。自販機のひかりが
水辺に見えてくる。払い除けることもせずそこにいる優しさ。
ただ困ってるだけかもしれないけど、カゲロウの目線と
なじんでいくのがいいな。


2022/12/24

めづらしい蝶をみたよとそれだけをつたえるために彼はきたのだ/北川草子

 めづらしい蝶をみたよとそれだけをつたえるために彼はきたのだ/北川草子

短歌タイムカプセルより

そんなことで?って思うけど、そんなことが嬉しいよね。
彼の笑顔が見えるようだ。でも何度か読むと淡々としてて
気持ちが引いていってるようにも見えてくる。どっちなんだろう。
読む人によって、あるいは読む時の気分によって
印象が変わるのが面白いね。


2022/12/23

書くことは消すことなれば体力のありさうな大きな消しゴム選ぶ/河野裕子

 書くことは消すことなれば体力のありさうな大きな消しゴム選ぶ/河野裕子

短歌タイムカプセルより

「書くことは消すこと」で読み進めて、何か矛盾というか
違和感があって、古語辞典で調べた。書いたことを、
ということかな。文語?古語?難しい…。ただ大きいだけじゃなく、
体力のありそうな、というのが書いたり消したりを強調してる。
内面の悩みも表れてるのかな。


2022/12/22

延命措置「しない」に丸をつけてをり寒雲ひとつわがに浮かべ/川野里子

 延命措置「しない」に丸をつけてをり寒雲ひとつわが上(へ)に浮かべ

わが裡のしづかなる津波てんでんこおかあさんごめん、手を離します/川野里子

短歌タイムカプセルより

朝から涙目になってしまった。父は延命措置を望まなか、 た。私も望まないだろう。母は、今思うと一分一秒でも永く生きていて欲しかったんだろうな。きっとどの選択も間違ってなくて後悔を残していくんだろう。


2022/12/21

どこかまで歩きつづける 今までにつないだ点を思い返して/加藤千恵

 どこかまで歩きつづける 今までにつないだ点を思い返して/加藤千恵

短歌タイムカプセルより

どこかまで、という曖昧さ。つないだ点の数々。
きっとこれからもつながっていくんだろう。振り返ると
気付かぬ内につながってたりするんだ。つないだ点忘れずにいたい。いつかたどりつくどこかで点は線になってるだろうか。
あの点がどこかへつながっていく。


2022/12/20

だしぬけにぼくが抱いても雨が降りはじめたときの顔をしている/加藤治郎

 だしぬけにぼくが抱いても雨が降りはじめたときの顔をしている/加藤治郎

短歌タイムカプセルより

雨って悲しみのイメージが強いけど、恵みの雨もあるし、
降りはじめというところに物語があって、色々想像が膨らんで
美しい歌だなーと思った。ぼくにしか見せない表情じゃないのかなと
思うけど、相手の心はちょっと違うところにあるのかな。
お互いに淋しい感じがする。


2022/12/19

扁桃アーモンドふくらむのどかさしあたり衿巻をして春雪を浴ぶ/春日井建

 扁桃(アーモンド)ふくらむのどかさしあたり衿巻をして春雪を浴ぶ/春日井建

短歌タイムカプセルより

中咽頭癌のため永眠、と知る。この情報がなかったら、
ただ近付く春を感じる歌、で終わってたと思う。
それはそれで美しいけれど。わざわざ漢字にするアーモンド、
 ふくらむのどかが恐ろしいものになる。衿巻で隠す首もと、
春雪の冷たさはどれ程のものだったろう。


2022/12/18

風景画の始まりに空描くため一滴の黄は落とされにけむ/香川ヒサ

 風景画の始まりに空描くため一滴の黄は落とされにけむ/香川ヒサ

短歌タイムカプセルより

 絵のことはよく分からないけど、この一滴で空が見えてくるし、
始まり、と黄色で、朝焼けなのかなって想像する。
でも何かの比喩なのかな。黄色なのが気になるな。
まっ白いキャンバスに広がってゆく風景画。
何かうまく言えないけどいいな。一滴に心を掴まれる。



2022/12/17

見えはじめすき透りはじめ少年は疑ひもなく死にはじめたり/小野茂樹

 見えはじめすき透りはじめ少年は疑ひもなく死にはじめたり/小野茂樹

短歌タイムカプセルより

思春期の頃ってこんなだったろうか。色んな事を知り始め、
自分が何者か分からなくなって、生きてる時間を減らしてゆく。
今思うと短かかったんだろうけど、あの頃は、永遠だった。
戻りたくはない。でもあの頃の自分が今の自分を作ったんだよね。
疑えば良かったのかな。




2022/12/16

犬はいつもはつらつとしてよろこびにからだふるはす凄き生きもの/奥村晃作

 犬はいつもはつらつとしてよろこびにからだふるはす凄き生きもの/奥村晃作


短歌タイムカプセル より

犬を飼うまで、犬がこんなに甘えん坊で、
全身で愛情表現をしてくる生き物だなんて知らなかったよ。
あんなに怖かったのにね。今も大型犬はちょっと怖いけど。
言葉が分からないから、人間が都合良く解釈してるだけかも
しれないけど、嬉しいのは分かるよ。ありがとう。

2022/12/15

見えてゐる世界はつねに連弾のひとりを欠いたピアノと思へ/荻原裕幸

見えてゐる世界はつねに連弾のひとりを欠いたピアノと思へ/荻原裕幸

短歌タイムカプセルより

いつもこの視点を忘れてはならない。今は情報が溢れて、
知りたくなかった情報も入ってくるけど、それだって全てではない。
時々自分だけが取り残されたような気持ちになるんだ。
そんな時に、この歌を思い出せるといいな。
知らない誰かを思うこと。誰かが私になるということ。





2022/12/14

かなしみを遠くはなれて見つめたら意外といける光景だった/岡野大嗣

 かなしみを遠くはなれて見つめたら意外といける光景だった/岡野大嗣

短歌タイムカプセルより

これはある種の現実逃避、心を守る術だよね。
かなしみに対して意外といけると軽く流してしまう。
実際に過ぎてしまえばそういうものかもしれないけど、
その時はかなしみの底にいるような気持ち。
いつまでも悲しんでばかりもいられない。
遠く離れて見えてくるもの。


2022/12/13

なんとなくみだらな暮らしをしておりぬわれは単なる容れ物として/岡崎裕美子

 なんとなくみだらな暮らしをしておりぬわれは単なる容れ物として/岡崎裕美子

短歌タイムカプセル より

この人の歌にはいつも満たされなさが漂っている。
それを分かっていながらの「みだらな暮らし」。
そこにある空しさ。でも不思議と悲壮感はない。
諦めてるようで強く求めてる。満たされない容れ物を抱える自分。
いつも外から自分を見ているような視点が怖い。

2022/12/12

美しい花ばかりあるわけぢやない雑草あらくさは風のなかの寂しさ/岡井隆

 美しい花ばかりあるわけぢやない雑草(あらくさ)は風のなかの寂しさ/岡井隆

短歌タイムカプセルより

「雑草という草はない」と言った園芸の先生を思い出す。
私にとっての雑草は、誰かには美しい花かもしれない。
居心地の悪さを感じてるんだろうか。
雑草に焦点が当たっていくのがいいな。この雑草は私であり、
あなたなんだと思う。弾かれたような寂しさ。それでいいんだ。


2022/12/11

モノクロの写真に眼鏡の山は見ゆ死とは視界を置いてゆくこと/大森静佳

 モノクロの写真に眼鏡の山は見ゆ死とは視界を置いてゆくこと/大森静佳

短歌タイムカプセルより

視界と死界。置いてゆく、がすっと入ってくる。
眼鏡の山が難しくて良く分からないけど、モノクロの写真が
死を色濃くする。眼鏡は一人一人に合わせたもの。
閉ざされてゆく視界。死体の山を思い浮かべてしまって苦しい。
 かける人のいなくなった眼鏡。置いてゆく、か。


2022/12/10

四歳をぐぐつと抱けば背骨あり 死にたくないな君が死ぬまで/大松達知

 四歳をぐぐつと抱けば背骨あり 死にたくないな君が死ぬまで/大松達知

短歌タイムカプセルより

子供って柔らかい。普段骨を感じる事ってそんなにないかも。
ぐぐっという力強さ。生きているというあたりまえに気付く。
親は子より先に死ぬ。それでも見届けたい。 叶わぬ願いは
子の成長を願う親心かな。子供を抱けるのってあっという間だったな。
背骨なのがいいな。


2022/12/09

みどりごは見えぬもの見て泣くという噴水の秀(ほ)に冬の日が差す/大西民子

 みどりごは見えぬもの見て泣くという噴水の秀(ほ)に冬の日が差す/大西民子

短歌タイムカプセルより

凄い。短編小説みたいだ。秀は穂と同源との事。
美しく垂れ下がる噴水と柔らかな日差しと。子供の泣き声が
どこか遠く、ここにないものを思わせる。それらを見てる自分も
また違うところに身を置いてるような。
噴水の音が赤子の声とも重なっていく。見えぬものの深さ。




2022/12/08

子を乗せて木馬しづかに沈むときこの子さへ死ぬのかと思ひき/大辻隆弘

 子を乗せて木馬しづかに沈むときこの子さへ死ぬのかと思ひき/大辻隆弘

短歌タイムカプセルより

以前見たお芝居を思い出す。「子育てはある種の宗教だ。
この子が不幸になるはずがないと信じて疑わない。」
そうかもしれない。幸せな光景の中でふと気付いてしまう。
沈む、が急に深く暗くなる。自分より先に死ぬはずがないと
信じている。いつか来る死が自分より後でありますように。


2022/12/07

魚の眼にわれは異形のものなるを しづかなるひるの水槽に寄る/大塚寅彦

 魚の眼にわれは異形のものなるを しづかなるひるの水槽に寄る/大塚寅彦

短歌タイムカプセルより

水槽って不思議。眺めてるとだんだん自分が水槽の中に居る
みたいな気持ちになる。魚にとってはいい迷惑だろう。
本当に魚眼レンズのようにこっちが見えてるのかな。
下の句から水の音が聞こえてくるし、きっと気のせいだけど
魚と目が合ってる。見えない水と一体化してく。


2022/12/06

ホームラン放つバットが種子だった姿おもうよ水を飲みつつ/大滝和子

 ホームラン放つバットが種子だった姿おもうよ水を飲みつつ/大滝和子

短歌タイムカプセルより

野球に興味が無さそうなのがいいなぁ。
アオダモがバットになるまで70年かかるらしい。
球場の植樹祭でよく植えられるけど、あまり現実的ではないのかな。
そうやってこの歌を読むと、過去から現在、未来への繋がりが
大きく動いていくようにも見える。結句が絶妙。


2022/12/05

産めと言ひ殺せと言ひまた死ねと言ふ国家の声ありきまたあるごとし/大口玲子

 産めと言ひ殺せと言ひまた死ねと言ふ国家の声ありきまたあるごとし/大口玲子

短歌タイムカプセルより

自分と重ねて、何もして、こなかった自分を恥じる。
慣りを感じて、おかしいと思っていたのに。
言いなりになってはいけないと思いつつ、でもしょうがないよねと
あきらめていた気がする。国家の声は国民の声ではなかったか。
その声は私が作ったのかもしれない。



2022/12/04

ここはまだ平和ですのと咲いているひまわり風にゆれるひまわり/江戸雪

 ここはまだ平和ですのと咲いているひまわり風にゆれるひまわり/江戸雪

短歌タイムカプセルより

「まだ平和」の先にある未来を思うと苦しい。
ひまわりが二度繰り返されて、情景が強く心に浮かび上がる。
ここじゃないどこかのこと。明日は我が身と思いつつ、
どこか他人事でもある。風にゆれてるのは
そんな気持ちなのかなと思った。ひまわりは力強くて少し淋しい。


2022/12/03

ティーバッグのもめんの糸を引き上げてこそばゆくなるゆうぐれの耳/梅内美華子

 ティーバッグのもめんの糸を引き上げてこそばゆくなるゆうぐれの耳/梅内美華子

短歌タイムカプセルより

ティーバッグからお茶、耳と一体化していくようで面白いなと思った。
ゆうぐれの色から、ダージリンのファーストフラッシュのような
薄いオレンジ色を。こそばゆくなる耳はティーバッグの持ち手と
繋がる。仕事終りのひとときかな。不意に思い出す今日の一場面。


2022/12/02

たんぽぽの河原を胸にうつしとりしずかなる夜の自室をひらく/内山晶太

 たんぽぽの河原を胸にうつしとりしずかなる夜の自室をひらく/内山晶太

短歌タイムカプセルより

何となく気持ちが落ち込んで、家に帰りたくない心境なんだろうか。
そんな日もあるよね。たんぽぽの河原の黄色い明るさと、
静かな夜、まっ暗な部屋の対比がいいな。
 ここがあの場所になるように。もしかして何かの決意なのかな。
心の拠り所。ひらく動作のためらいと力強さ。


2022/12/01

致死量の日向ひうがの空の青にまだ殺されずわれ生きてゐるなり/伊藤一彦

致死量の日向ひうがの空の青にまだ殺されずわれ生きてゐるなり/伊藤一彦

短歌タイムカプセルより

まるで殺されるのを待ってるみたいだ。いや、待ってるのかな。
この地で生きていくという、決意表明かも。いつ死ぬかなんて
分からなくて、空はどこまでも青くて。 致死量の空の下で、
生かされているんだ。いつか殺されるその時も、
きっと空の青は美しいままだ。