2023/09/30

庭に咲く匂菫にたはむれる家猫なでて子は帰りゆく/杉本容子

 庭に咲く匂菫にたはむれる家猫なでて子は帰りゆく/杉本容子

短歌研究2023年5+6月号より

少し切ない連作。亡夫の建てた家、更地の増える住宅地、
巣立っていった子供たち、「気楽なる」独り暮らし。
帰って来ていいかと聞く子供。後のことを考える。終の住処、
と簡単に言ってもいいのかな。どう書けばいいのかな。
思い出というよりは家族の歴史。残るもの残らないもの。


2023/09/29

吹く風に誘われ鳥たち還りゆく吾も見納めの旅支度せん/菅原恵子

 吹く風に誘われ鳥たち還りゆく吾も見納めの旅支度せん/菅原恵子

短歌研究2023年5+6月号より

昭和13年生まれ。こんなふうに生きてゆけるだろうかその思いは覚悟なのか決意なのか。春の明るさ、今も恋しい亡夫、
ここに立っている自分。この先のこと。心に支えが、
ことばがあれば、老いてゆくこと、死んでゆくことも
怖くなくなるかな。還りゆく、がいいな。


2023/09/28

寝室に居間に厨に人をらぬ六年そろりと俺を曚くす/島田修三

 寝室に居間に厨に人をらぬ六年そろりと俺を曚くす/島田修三

短歌研究2023年5+6月号より

読めなくて調べた「曚」。くらい。日の光がおおわれて
ほのぐらいの意味。読めなくても、一人の空気は感じたけれど、
意味が分かると六年という歳月がどんなだったかを思って
淋しさが増す。日々忙しくて、あっという間の
六年だったんだろうか。そろりと、というほのぐらさ。




2023/09/27

いきいきと丸い目をして駆け回るマルチーズチワワチワワひとひと/社領美穂

 いきいきと丸い目をして駆け回るマルチーズチワワチワワひとひと/社領美穂

短歌研究2023年5+6月号より

わちゃわちゃと小さい犬と子供たちが走り回ってる様子が
目に浮かんでかわいらしい。結句のひとひとまで犬種に見えたり、
オノマトペのようにも感じられたりして、楽しい気持ちになる歌。
そんな楽しい歌なのに泣きたくなるほど眩しい。
いきいきが明るくて好き。


2023/09/26

インストゥルメンタルとなりて気の抜けたサイダーのごとくなれるを歯科に聴きをり/島田幸典

 インストゥルメンタルとなりて気の抜けたサイダーのごとくなれるを歯科に聴きをり/島田幸典

短歌研究2023年5+6月号より

どこで句切るか迷うのに、読みにくさはない。何となくふわっとした、
リラックスする時間と思いきや、結句でびっくりする。
サイダーの泡が一瞬であの機械の音となって消えてゆく。
無になって耐えるような。終わった後も心ここにあらずで
音楽と溶けちゃうようで好きだな。


2023/09/25

風強く知恵がまはらず前庭の大き蜜柑がぶらぶらとする/島崎榮一

 風強く知恵がまはらず前庭の大き蜜柑がぶらぶらとする/島崎榮一

短歌研究2023年5+6月号より

知恵がまわらないのは風のせいではないだろう。
それでもどこの不穏な風。揺れる蜜柑は今にも落ちそうなんだろうか。
案外しっかりしてる?ぶらぶら、が自分の頭の中の状態のようであり、
だんだん大きくなって落ちてしまうのではないかと不安になる。


2023/09/24

夏を待ち茅の輪くぐりの時空超えいにしへ人もどこでもドア好き/柴田典昭

 夏を待ち茅の輪くぐりの時空超えいにしへ人もどこでもドア好き/柴田典昭

短歌研究2023年5+6月号より

調べてみたら、くぐるようになったのは江戸時代あたりからなんだね。
昔の人に思いを馳せるというのは、どこでもドアに似てるのかも
しれない。茅の輪がどこでもドアになっていくのがいいよね。
近い未来と遠い過去が同居してる感じ?が好きだな。
時空超え、がいい。好き。


2023/09/23

つまんないから起きてよと日曜の息子が私に眼鏡をかける/澤村斉美

 つまんないから起きてよと日曜の息子が私に眼鏡をかける/澤村斉美

短歌研究2023年5+6月号より

どの歌を書くか迷うくらい、どの歌も素敵だった。
日曜の息子がいいよね。平日は早く起きなさいと言われてるのかな、
とか。子供の頃って日曜日は非日常めいてたなと思う。
親と一緒にいるのが楽しいんだろうな。
ゆっくり寝ていたい親との温度差がいいな。


2023/09/22

イヌマキにイヌシデ、イヌツゲ見上げたりイヌと呼ばるるものの悲しさ/沢口芙美

 イヌマキにイヌシデ、イヌツゲ見上げたりイヌと呼ばるるものの悲しさ/沢口芙美

短歌研究2023年5+6月号より

カタカナだと冷たい感じがするね。この歌に出てくる植物は、
犬じゃなくて異なる、という意味。調べてから書けば良かったな。
急に下の句が近くなる。否定されるような悲しさ。最初に、
犬死にとか〇〇の犬とか、ネガテブな言葉と重なったんだ。
異なる、か。


2023/09/21

楠(くすのき)の葉むら繁れる片つかた朝の光がすずなりに垂る/志垣澄幸

 楠(くすのき)の葉むら繁れる片つかた朝の光がすずなりに垂る/志垣澄幸

短歌研究2023年5+6月号より

何て美しい歌なんだろう…。片つかた。すずなり。
降り注ぐような木もれ日。朝の光のみずみずしさ。
何を書いても陳腐になってしまうなぁ。
何気ない朝が色付いてゆくような。楠の緑や、
まだやわらかい朝の光。こういう感受性を持ちたい。
おはよう、世界。




2023/09/20

海分けてもどるこの世の岸までをべんてん丸に小さ揺らる/佐波洋子

 海分けてもどるこの世の岸までをべんてん丸に小さ揺らる/佐波洋子

短歌研究2023年5+6月号より

どこにあるか分からなくて調べた。神奈川、江島神社。
三姉妹の女神様。べんてん丸は遊覧船。少しだけ神様のことを
調べて、改めてこの連作を読むと、神様が近く感じたり、
見たことのない風景が目の前に広がったりする。祈りって、
心を鎮めるし、ざわつかせもするなと思う。



2023/09/19

沖縄島(ほんたう)を一周回つて紺碧の海を見てゐるわれは旅人/佐野美恵

 沖縄島(ほんたう)を一周回つて紺碧の海を見てゐるわれは旅人/佐野美恵

短歌研究2023年5+6月号より

昨日に続いて沖縄の歌。美しいだけじゃない沖縄。
過去と今を繋いでいくような。美しさの向こうにあるもの。
あったもの?うまく言葉が出てこない。戦争や基地問題が
どこか影を作る。目を背けてはいけないと言われてる気がする。
われは旅人に思う沖縄との距離。


2023/09/18

〈日本国〉あおい紙のパスポートとなければ還れず故郷沖縄/佐野豊子

 〈日本国〉あおい紙のパスポートとなければ還れず故郷沖縄/佐野豊子

短歌研究2023年5+6月号より

こういう一連を読むと、本当に私は沖縄のことを知らないんだなと思う。
連作のタイトルも心の故郷なのが、変わってしまった今を
映してるようで切ない。何を書いても言葉を間違えてしまいそうだ。
帰るために必要だった色の違うパスポート。そうか、還れず、か。


2023/09/17

変わらずに流れていると思われる一級河川「時間」は何処へ/佐藤りえ

 変わらずに流れていると思われる一級河川「時間」は何処へ/佐藤りえ


短歌研究2023年5+6月号より

繰り返し読んでると何をもって「変わらず」としているのか
分からなくなる。結句も唐突で、何だか大きな川の流れが
止まってしまうかのよう。思われる、で、沈むような暗さがあって、
一級河川と時間の大きさに繋がるのが凄い。
全然感想になってない…。心に残る歌だ。

2023/09/16

七階の踊り場に来てはつか死に近くなりしか月は沈みぬ/佐藤弓生

 七階の踊り場に来てはつか死に近くなりしか月は沈みぬ/佐藤弓生

短歌研究2023年5+6月号より

一首目では六階の踊り場にいる。これは最後の歌。
静かに暗くなるような、行き止まりのような息苦しさを感じた。
はつかはわずかと分かっているんだけど、二十日に見えてしまって
ちょっと怖い。生きるということは、誰しも死に近づいてる
とも言えないか。夜は淋しい。




2023/09/15

「早く送れ」が「寄越せ」に変はらむとする際をこの冬一番の酷寒となる/佐藤通雅

 「早く送れ」が「寄越せ」に変はらむとする際をこの冬一番の酷寒となる/佐藤通雅

短歌研究2023年5+6月号より

ふふっと笑ってしまった。ギリギリまで先延ばしにしてるのかな。
そろそろヤバいという雰囲気は感じてるよね。まだ大丈夫、
とのせめぎ合い、みたいな。寒々とした空気を一瞬で感じ取ってる。
酷寒がいいよねぇ。やってしまった、みたいな後悔が出てる気がする。


2023/09/14

大木にこころを寄する昼下がり明日より君は小学生なり/佐藤モニカ

 大木にこころを寄する昼下がり明日より君は小学生なり/佐藤モニカ

短歌研究2023年5+6月号より

過ぎてしまえばあっという間だけど、永遠みたいな毎日だった。
やっとここまで来た。ここからのスタート。
ほっとしたような、淋しいような、心配は尽きないのだけど。
 上の句がいいよねぇ。見守るような、包み込むような。
キラキラした子供の誇らしげな顔が浮かぶよう。

2023/09/13

さくら待つ弥生は悲しみ深き月 あの震災も卯年なりけり/佐田公子

 さくら待つ弥生は悲しみ深き月 あの震災も卯年なりけり/佐田公子


短歌研究2023年5+6月号より

確かに、三月、て少し特別で、もの悲しい雰囲気がある。
でもさくらを待つという明るさもあって、光と影が
くっきりしてるのかな。ああでも桜を待つのも悲しいのかな。
思い出す震災。希望のような桜。今の自分。下の句の「も」。
卯年に巡る思いがあるのかも。

2023/09/12

南天の大樹そびえし仕事場に侵入しており恋知らぬ人/佐佐木定綱

 南天の大樹そびえし仕事場に侵入しており恋知らぬ人/佐佐木定綱

短歌研究2023年5+6月号より

これは山崎方代の本歌取りで当ってる?あちらは南天の実で、
こちらは大樹。たった一つの恋とまだ知らぬ恋。
侵入、というのが気になるなぁ。文語が分からなすぎて、
正しく読めてない気がする…。人と書いてあるのに人っぽくないな、とか。
仕事を乱す恋心かな、とか。




2023/09/11

一周を回るどころか七めぐりいつの間にやら八十四歳/佐沢邦子

 一周を回るどころか七めぐりいつの間にやら八十四歳

人の世を学びの時と惟んみる其を発表せむ次の世あるや/佐沢邦子

短歌研究2023年5+6月号より

連作の最初と最後の歌。私は歳を取るのが怖いのかな。
だから、人生を辿るような歌が好きなのかもしれない。
自分だけが間違ってるような、踏み外したような気がするけど、
そうではなくて。ただ日々を歩くあたりまえの日常。
それでいい、それが大事と教えてくれる。



2023/09/10

夕さりのひかりの中で想うのはできるだけ架空のヨーロッパ/笹川諒

 夕さりのひかりの中で想うのはできるだけ架空のヨーロッパ/笹川諒

短歌研究2023年5+6月号より

架空の、というのがいいなぁ。ぼんやりとした輪郭。
たどりつけない儚さみたいな。どこか遠くへ心を連れてゆく。
夕方の、あっという間に流れてゆくひかり。
ときどき自分だけが取り残されたような気持ちになる。
そう思うと、架空のヨーロッパは案外近いのかもしれない。


2023/09/09

横尾忠則オペラレコードに針置けば無音のままに回る日の丸/笹公人

 横尾忠則オペラレコードに針置けば無音のままに回る日の丸/笹公人

短歌研究2023年5+6月号より

レコードが出てたんだ。ん?オペラ?え?無音?と、情報が多い。
それでも、エッセイにも書いてあったけど何だか横尾さん的だ。
日の丸も横尾さんらしい赤なんだろうなと想像する。
それとも回ることで日の丸に見えるんだろうか。
絶対ジャケットが凄いやつだ。


2023/09/08

垂訓に空飛ぶ鳥を見よといふ鳥の自由をわれら持たねど/坂井修一

 垂訓に空飛ぶ鳥を見よといふ鳥の自由をわれら持たねど/坂井修一

短歌研究2023年5+6月号より

ふと立ち止まるような歌だと思った。鳥の自由を思いながら、
本当に自由なのかなって思ったりもする。何となく、智恵子抄を
思い浮かべてみたり。鳥ほどの自由はないけれど、
ほんのちょっとの勇気でどこへでも飛べるんじゃないかとも
思うんだ。見上げる空の大きさ。






2023/09/07

妹はいくつになりても幼かる春のいもうと傍らにいる/佐伯裕子

 妹はいくつになりても幼かる春のいもうと傍らにいる/佐伯裕子

短歌研究2023年5+6月号より

私の妹はじゃじゃ馬で自由奔放で、若い頃は苦手だった。
今はてきぱきしてしっかり者で、すっかり姉と妹が
入れ替わったように思う。苦手だった妹も今は理解できるし、
きっと私達は互いに無いものねだりをしていた。
いくつになっても。兄弟ってみんなこんな感じなのかな。



2023/09/06

コロナ禍で学んで子らは卒業す無限大なる渦を巻きつつ/桜川冴子

 コロナ禍で学んで子らは卒業す無限大なる渦を巻きつつ/桜川冴子

短歌研究2023年5+6月号より

やるせない気持ちになるね。どれだけ貴重な四年間だったろう。
もっと色々出来たんじゃないか、失うものばかりだったんじゃないか
と思うけど、きっとそうではなくて。今までのことも新しいことも
見直しては取り入れて。下の句の渦は新しい時代の、彼らの希望の渦だ。


2023/09/05

水の面(おもて)かげりつつあり思想にも暗部のあれば引き寄せられる/阪森郁代

 水の面(おもて)かげりつつあり思想にも暗部のあれば引き寄せられる/阪森郁代


短歌研究2023年5+6月号より

何というか、ザラッとして怖い。自分の心の奥にある暗部。
聖人君子じゃないんだから、自分の信念が揺らぐことだってある。
かげりつつあり、か。自分が?世の中が?ちゃんと立ってる?
引き返してる?沈んでいくような怖さ。
水面の揺らぎはいつだって不規則だ。



2023/09/04

透明な火が街にきて甘やかな声たてながら滅んでいった/嵯峨直樹

 透明な火が街にきて甘やかな声たてながら滅んでいった/嵯峨直樹


短歌研究2023年5+6月号より

マスコミ、じゃなくてSNSの一連かな。この歌が特に怖いなと思った。
自業自得、とはちょっと違うか。こんなに情報が溢れてるのに、
結局は自分の見たいものしか見えてない。
他人事のように炎上を見て、甘言に惑わされて。
次に身を滅ぼすのは私かもしれない。

2023/09/03

がらがらばーんと扉を開けて春が来る春はわたしをせんせいと呼ぶ/齋藤芳生

 がらがらばーんと扉を開けて春が来る春はわたしをせんせいと呼ぶ/齋藤芳生

短歌研究2023年5+6月号より

上の句の元気で唐突な様子と春が不思議とマッチしてて好きだな。
下の句で春の先生の忙しさを思うよね。明るくて眩しくて、
でもあっという間に過ぎて。気持ちを新たに入れ直す時期でも
あるのかな。にぎやかだけど、おだやかでもある。
春って特別な感じがする。



2023/09/02

人はじぶんの生きる時代を節目と思いがちだと思う うずうずするわ/斉藤斎藤

 人はじぶんの生きる時代を節目と思いがちだと思う うずうずするわ/斉藤斎藤


短歌研究2023年5+6月号より

斉藤さんの短歌はいつも難しい…。
この歌は面白いなと思った。相反するというか気持ちのズレというか。
楽しんでるようでもあるよね。どこが節目かなんて、
過ぎてみなきゃわからないから、そう思いながら生
きるのも悪くないかも。あ、そういう他者に対してのうずうずか。

2023/09/01

時代は次どこへ流れるめがねをふきはちじゅっさいを迎えるつもり/さいとうなおこ

 時代は次どこへ流れるめがねをふきはちじゅっさいを迎えるつもり/さいとうなおこ


短歌研究2023年5+6月号より

めがねで一枚隔ててる感じと、時代の流れ、ひらがなの80歳。
どれも不明瞭で不安なのに怖くない。流されてるわけじゃなくて、
ちゃんと自分で立ってるからだ。自分で、前を見て。
私はいつもグラグラしてる。なるようにしかならなくて、
それを受け入れて生きてゆくこと。