2024/11/30

死はいつかこの湿原へかへることまたあふぎ見ぬキラコタン岬/坂井修一

 死はいつかこの湿原へかへることまたあふぎ見ぬキラコタン岬/坂井修一

現代の歌人140より

私にとってのこういう場所はトドワラだなぁ。
結句をトドワラにしたら、私のための歌なんじゃないかと
錯覚してしまうくらい。人生最後の旅行はトドワラと決めている。
圧倒される風景がある。何の根拠もなく、
魂はここへ帰ってくるような気がするんだ。いつか、かへる場所。





2024/11/29

晩秋のひかり湛へるみづうみを心に住まはせ部屋ごもりする/宮本永子

 晩秋のひかり湛へるみづうみを心に住まはせ部屋ごもりする/宮本永子

短歌研究2024年5+6月号より

一読して好き!!となって勢いで書写したけど、本当に好き、
しか出てこないな…。秋の空気。春が新しい事を始めたくなる
季節だとしたら、秋はそうやって湛えたみづうみを活かす季節かも。
秋の夜長だねぇ。暮れの忙しさが近づいてきて、
みづうみの静けさが心を癒やす。


2024/11/28

風を打つ雨を見てをり 雨を吹く風を見てをり 壊れさうだな/小島ゆかり

 風を打つ雨を見てをり 雨を吹く風を見てをり 壊れさうだな/小島ゆかり

現代の歌人140より

最後の壊れそうだなは自分自身のことかなと。
それなりに強い雨風をただ見つめている自分。
そこにあるのは雨と風だけで、普通に考えれば壊れそうな
建物が見えてきそうなのに、この歌では雨と風が壊れそうだと
思えてくる。そう思う自分の心の揺らぎ。


2024/11/27

不安げなる顔して病室に入りくるむすめよここだ父はここにゐる/一ノ関忠人

 不安げなる顔して病室に入りくるむすめよここだ父はここにゐる/一ノ関忠人

現代の歌人140より

子供の頃、親が入院すると、このまま死んじゃうんじゃないかと
不安だった。きっとそんな顔をしていたのだろう。
父のまなざしの優しさ。そして父自身の不安。
むすめにあんな顔をさせてはいけないと、病で気弱になった心を
奮い立たせてくれたんじゃないだろうか。


2024/11/26

つれづれに読む広辞苑 〈原子力発電〉のつぎに〈原始林〉あり/大松達知

 つれづれに読む広辞苑 〈原子力発電〉のつぎに〈原始林〉あり/大松達知

『桜前線開架宣言』より

思わず確認しちゃった。つれづれに、が効いてるよねえ。
ふと目に飛び込んできて、はっとする。ただの並び順なんだけど、
何だかそこに意図があるように感じてしまう。
心の持ちようって凄いな。うまく説明できないな。
無から有を勝手に見出して考えてしまう。でも気付きでもある。


2024/11/25

水鳥を「水鳥ちゃん」と呼ぶひとがここはこの世の果たてだと言う/笹川諒

 水鳥を「水鳥ちゃん」と呼ぶひとがここはこの世の果たてだと言う/笹川諒

短歌研究2024年5+6月号より

実は名字なんじゃないかなと思ったよ。
それでも水辺に立つ人と水鳥が見えてくる。思い浮かんだのは野付半島。
潮が満ちて、今歩いていた道が隠れる。揺れる水鏡に映る空と人々。
浮かぶ水鳥。ふともう戻れなくなるんじゃないかと思う。
果たてという言い回しがいいな。


2024/11/24

ダリとガラ 二十世紀はおおらかな蜜流しつつ苦しみながし/中津昌子

 ダリとガラ 二十世紀はおおらかな蜜流しつつ苦しみながし/中津昌子

現代の歌人140より

どの時代も、それぞれの苦楽があっただろうけど、
この二人の時代背景というか、光と影?激動の時代で、でも
「おおらか」でもあったのかなと。良くも悪くもね。
私には良く分からない関係だけど、二人にしか分からない
蜜と苦しみを流しあってたのかな。今気付いたけど、
最後の「ながし」は「永し」か!二十世紀の長さと。


2024/11/23

一日にたった五分の健康に良い体操を初日でやめた/工藤吉生

 一日にたった五分の健康に良い体操を初日でやめた/工藤吉生

短歌研究2024年5+6月号より

この歌が好きすぎる笑。この歌のおかげでもうちょっと
頑張ってみようという気持ちになる。結局は三日坊主なんだけど…。
言い訳だけど、やってみないと続くかどうか分からないし、
やってみただけ偉いよね。やれば何かのきっかけで
再開するかもしれないし。心強い歌。


2024/11/22

わが招き猫よおまえとただに在るだけの日を多めにしておくれ/雪舟えま

 わが招き猫よおまえとただに在るだけの日を多めにしておくれ/雪舟えま

短歌研究2024年10月号より

凄いな。小説のような連作だと思ったら、
同タイトルの小説があるのね。物語としてのファンタジーが、
一首になった時に現実の比喩に見えてくる不思議。
この歌も、 人を猫に例えてるのかなと。
ある日フラッといなくなるかもしれない。
いなくなることを受け入れてもいる。


2024/11/21

女は子を産むべきものと脳髄のどこかで復唱してゐる われも/久我田鶴子

 女は子を産むべきものと脳髄のどこかで復唱してゐる われも/久我田鶴子

現代の歌人140より

結婚して子を産むのが女の幸せという価値感の時代があって、
今はそれだけじゃない、そうではないと思ってはいるけれども、
染み付いた価値感はそう簡単には消えない。
どこかで復唱している、と、言葉の端々ににじみ出てしまうのだろう。
最後のわれも、に打ちのめされる。


2024/11/20

ひとの死ぬるは明るいことかもしれないと郭公が鳴く樹の天辺で/渡辺松男

 ひとの死ぬるは明るいことかもしれないと郭公が鳴く樹の天辺で/渡辺松男

現代の歌人140より

静かに静かに誰かの死を思って、自分の死を思うよ。
春を告げる郭公。残された者。自分の余命?明るいことで
あってほしいという願望?郭公は托卵する。何を残すのか。
樹の天辺で周りを見渡して何を見ているのか。
見上げる私に郭公の姿は見えるかな。鳴き声が響く。


2024/11/19

人はみな霧のごとくに過ぎゆきぬ白木蓮の花咲きにけり/山埜井喜美枝

 人はみな霧のごとくに過ぎゆきぬ白木蓮の花咲きにけり/山埜井喜美枝

現代短歌文庫より

命の短さかなぁ。短さというか、はかなさ?
いつかは訪れるものなのに、突然と思ってしまうよね。
霧のごとくに、のかすんでゆくような景色と、
ふと気付けば咲いている白木蓮との間に流れる時間。
自分の感情が追い付いていかない。白木蓮の白さが眩しい。


2024/11/18

泡立てしシャボン溢るる手の平におぼれもせずに顔洗うひと/梅内美華子

 泡立てしシャボン溢るる手の平におぼれもせずに顔洗うひと/梅内美華子

現代短歌の鑑賞101より

おぼれてしまう人もいるのかな?と一瞬錯覚してしまうけど、
おぼれてしまいたいという自分の願望かな。
洗い流す=水に流すより、いっそおぼれて消えてしまいたい。
水の泡にも掛けてる?シャボンの泡で逃げられない、
おぼれることもできない。苦悩や後悔?難しいな。


2024/11/17

駐車場となりたる友の家を過ぎわたくしの影また一人消ゆ/尾崎まゆみ

 駐車場となりたる友の家を過ぎわたくしの影また一人消ゆ/尾崎まゆみ

現代の歌人140より

家人が変わったとしても、家としてあれば確たる記憶として
残りそうだけど、更地、駐車場になってしまうと、
おぼろげになっていくような気がする。まさに、という
下の句だなぁ。大人になって変わってゆく街並み。
自分もまた変わってるんだよね。良い歌だなぁ。


2024/11/16

ほんとうに若かったのか 噴水はゆうやみに消えあなを残せり/吉川宏志

ほんとうに若かったのか 噴水はゆうやみに消え孔(あな)を残せり/吉川宏志

現代短歌の鑑賞101より

若さと幼さの違いかな。若気の至り、みたいな。何か違うな…。
水の止まった噴水。何だろうな。ゆうやみの暗さ。もう戻らない
キラキラとした時間。あれ?違うか。 若かったのに、
何もしてこなかったという後悔?自分の中にある噴水。
何に対する疑問だろう。難しいな。


2024/11/15

孤独にて生きよと葉書にありしこと十五年後のわれを支える/中川佐和子

 孤独にて生きよと葉書にありしこと十五年後のわれを支える/中川佐和子

現代の歌人140より

人生って答え合わせだなって思うよ。良いことも悪いことも。
その時はピンと来なくても、時を経て気付くこと。過去が今に
繋がって、今は未来へと運ばれる。この葉書をくれた人のこと。
その人の孤独と十五年後のわれの孤独。支えるものの大きさを知る。


2024/11/14

うたがはぬ力授かり生まれし君らに母といふ泥の床/辰巳泰子

うたがはぬ力授かり生まれし君らに母といふ泥の床/辰巳泰子

現代短歌の鑑賞101より

幼い子にとって、母は世界だ。いつしか母も一人の人間と知る。
泥の床。体内から生まれたという生々しさと、けっして
落ちることなく足もとに広がるぬかるみ。ああそうか。
最初に疑う人間は母か。そこから泥の床へ。母は呪縛だと思うのは、
私が良い母でも子でもないからだろうな。


2024/11/13

大粒の雨降り出して気付きたり空間はああ隙間だらけと/栗木京子

 大粒の雨降り出して気付きたり空間はああ隙間だらけと/栗木京子

現代の歌人140より

パタパタと地面に落ちる雨。大粒の雨が濡らす場所。
すべてを覆うわけではない。どうやって書いたら良いんだろう。
ああ、とストンと落ちてくるような気付き。完璧ではないこと。
息苦しさから開放されるイメージだ。隙間がある、ではなく、
隙間だらけ。気付いて良かった。


2024/11/12

裏切つてしかも生くるが愉しみよあなたもきつとさうだとおもふ/紀野恵

 裏切つてしかも生くるが愉しみよあなたもきつとさうだとおもふ/紀野恵

現代短歌の鑑賞101より

上の句で、何て怖いことを言うんだと思いながら
下の句に入ると、まっすぐ読み手の私に指を差してくる。
いやそんなことはとうろたえながら、本当に?と心の奥の自分が囁く。
人は小さな裏切りを繰り返しながら生きてるのかも。
裏切られても生きてゆく。生きるって難しいね。


2024/11/11

鳥に影樹樹に眠りのあることを風よ告ぐべし未生の者に/内藤明

 鳥に影樹樹に眠りのあることを風よ告ぐべし未生の者に/内藤明

現代の歌人140より

魂ってこうやって受け継がれていくのかな。吹く風の優しさと厳しさ。
人間も自然の一部なのに、鳥のことも樹のことも、
ときどき忘れてしまう。未生の者に、がいいよねぇ…。
自分もいつか風になれるかな。言葉が出てこないな。
ずっとこの景色を見ていたい。


2024/11/10

今日までに私がついた嘘なんてどうでもいいよというような海/俵万智

 今日までに私がついた嘘なんてどうでもいいよというような海/俵万智

現代短歌の鑑賞101より

慰めを得る為に行った海、と読んだけど、
書きながら突き放されてるかも?とも思う。
海なら受け入れてくれそうな気がするという人間の都合と、
そんなのは聞きあきたという海。結局は虚しさだけがつのっていく。
海の広さが自分の心を暴いていく。自分と向き合う。


2024/11/09

四十代半ばは獣道に似る 夜歩くべし手斧をもちて/松平盟子

 四十代半ばは獣道に似る 夜歩くべし手斧をもちて/松平盟子

現代の歌人140より

どういうこと?って何度も読んじゃった。
行く道はもう誰かが辿ってる。でもどこへ着くかは分からない。
夜なのは、誰かに惑わされないように?立ちはだかるのは
柔らかい草ではなく、枝払いをしながらじゃなきゃ進めないから
手斧なの?手斧の重さがこれからの自分を動かす。


2024/11/08

ああいつた神経質な鳴り方はやれやれ恋人からの電話だ/荻原裕幸

 ああいつた神経質な鳴り方はやれやれ恋人からの電話だ/荻原裕幸

現代短歌の鑑賞101より

携帯電話のなかった時代は、こういう勘がよく当たっていたような気がする。
考えてみればかけてくる相手や時間で予測してたんだろうけど。
何かいいね。今なら誰か分からない電話は煩わしいかも。
神経質に聞こえてしまう電話の音。やれやれの期待と気まずさ。
喧嘩中だよね。


2024/11/07

砂浜は大きなベンチ 海からの風に吹かれてみたくなつたら/柳宣宏

 砂浜は大きなベンチ 海からの風に吹かれてみたくなつたら/柳宣宏

現代の歌人140より

ここに収録されている最後の五首がどれも良すぎて
選ぶのが大変だった。海の歌。どの歌も潮風が漂う。
私は海が好きなんだなとあたりまえすぎて忘れていたことに気付く。
ついどこにでも座ってしまう砂浜。それを受け入れてくれる海辺と風。
雪が降る前に海へ行けばよかった。


2024/11/06

水銀灯ひとつひとつに一羽ずつ鳥が眠っている夜明け前/穂村弘

 水銀灯ひとつひとつに一羽ずつ鳥が眠っている夜明け前/穂村弘

現代短歌の鑑賞101より

何だか懐しい風景だ。私の中の、思い出の景色。
海沿いの町のあの橋の街路灯にはいつもカモメが止まっていた。
 夜もそこで眠ってるわけではないだろうに、夜明け前はきっと
こんな感じなんだろうなって思う。チラつく水銀灯と迎える朝と。
今の時代に読むからノスタルジックに感じるのかな。


2024/11/05

走り出す人の傾き 白鳥の水を離るるときの傾き/今野寿美

 走り出す人の傾き 白鳥の水を離るるときの傾き/今野寿美

現代の歌人140より

同じ傾きに見えてくるね。同じなのかも。そこから離れて進む場所。
飛び立つ瞬間って美しいね。先に進むための傾き。
何だか置いて行かれそうだな。その一瞬の力強さ。意識してない
一瞬だとしても。誰かの傾きが美しく見えるように、
私もそうであるといいな。


2024/11/04

鳥のため樹は立つことを選びしと野はわれに告ぐ風のまにまに/大塚寅彦

 鳥のため樹は立つことを選びしと野はわれに告ぐ風のまにまに/大塚寅彦

現代短歌の鑑賞101より

ああ、凄いね。物語だ。この一首の世界に入りこんで、
私は野に立ってこの樹を見上げてる。ここでは風の声も樹の声も
鳥たちの歌も理解できそうな気がする。そして私は
どうしてここに立っているんだろう。ひとりぼっちで野に立って、
私は何を選んだんだろう。間違ってばかりだ。


2024/11/03

紅梅の枝が欠伸をするやうな午後なり猫が猫を呼ぶこゑ/武下奈々子

 紅梅の枝が欠伸をするやうな午後なり猫が猫を呼ぶこゑ/武下奈々子

現代の歌人140より

うふふ、読んでるだけでまどろんでいきそうな歌だね。いいなぁ。
空気が柔らかい。春の日差しが明るい。見えている景色というよりは
気配を感じてる。猫の声も、杖を揺らす風も姿は見えなくて、
自分自身も春の空気と同化していく。おだやかで幸せな午後だな。


2024/11/02

秋の陽をあまねく容るる窓の辺に紙を揃ふる手かしろく見ゆ/大辻隆弘

 秋の陽をあまねく容るる窓の辺に紙を揃ふる手かしろく見ゆ/大辻隆弘

現代短歌の鑑賞101より

下の句が難しい…。幻みたいだよね。幻なのかな。何だろうな。
紙の白さなのか手の白ささなのか。秋の夕暮れで少しまどろむような
風景を思った。うまく表現できないな…。距離感?
秋の陽がどこか自分を遠くへ追いやるような。
不意に現実感があやふやになる。何言ってるんだろ。



2024/11/01

永き永き時が育てし感情をもてあましつつ降る葉を数ふ/影山一男

 永き永き時が育てし感情をもてあましつつ降る葉を数ふ/影山一男

現代の歌人140より

自信はないけど万葉集かなぁ。
「育てし感情」って凄く素敵だなと思うのに、続く言葉は
「もてあましつつ」。永き永き、で手に追えない感じがしてくる。
今の季節と重ねて落ち葉と思うけど、言の葉って言うしね。
そりゃ良い感情ばかりじゃないなと思いつつ美しいとも思う。