2024/12/27

見た筈である、漆黒の鴉は海の方より戻り来たれば/高木佳子

 見た筈である、漆黒の鴉は海の方より戻り来たれば/高木佳子

『桜前線開架宣言』より

まだそんなに短歌を読んでなかった数年前、短歌誌に載っていた
彼女の歌を読んで、何かに急き立てられるように、 駆られるように
歌集を買った。でもきっと私は何も理解していない。
彼女の、そこに住む人々の、胸の内にあるもの。
私は無知で無力で打ちのめされる。




2024/12/26

鳥も獣も身を寄せあひて棲む胸に冬きはまれば立つ一木あり/藤井常世

 鳥も獣も身を寄せあひて棲む胸に冬きはまれば立つ一木あり/藤井常世

現代短歌文庫より

人の内面て難しいね。冬にだけ立つ木なんだろうか。
私は雪の積もった針葉樹が思い浮かんだよ。冬の厳しさが立つ
一木の強さ?何か違うな…。意志の強さみたいに感じたけれど、
冬の寒さにくじけそうになってる?うまく言語化できなくて
酷い文章だ…。身を寄せあう、も良い。 




2024/12/24

好きだった世界をみんな連れてゆくあなたのカヌー燃えるみずうみ/東直子

 好きだった世界をみんな連れてゆくあなたのカヌー燃えるみずうみ/東直子

現代の歌人140より

凄いね。「あなたのカヌー」とすることで、
あなたと一緒に乗って見ていた世界で、今はそのカヌーだけが
燃えている。みずうみの上で、いつかその火も消える。
好きだった、という過去形。みずうみは自分の内面かな。
燃えながら消えて、燃え残ったものが水面を揺らす。


2024/12/23

ものに名のあるとう不思議知りそめて朝ごと吾子が揺らす「かあてん」/俵万智

 ものに名のあるとう不思議知りそめて朝ごと吾子が揺らす「かあてん」/俵万智

現代の歌人140より

子育てのあれこれを思い出す優しい歌の数々。それと同時に、
私はここまでちゃんと子供を見てなかったなと暗い気持ちが
胸に降りてくる。その時はその時なりに頑張ってたと思いたい。
俵さんの子育ての歌を読みながら追体験をする。
うん。でも今だから読めるのかもしれない。


2024/12/21

この世へとめざめる朝の不思議あり軀ひねつてベルを静める/荻原裕幸

 この世へとめざめる朝の不思議あり軀ひねつてベルを静める/荻原裕幸


現代の歌人140より

寝てる間はどの世なんだろう?でも制御できないと考えると
別の世と言えるかも?ああ、そういう不思議さかな。
めざめる時の体の重さとか、不明瞭な意識とか。
まだこの世にない軀。ベルが違う世界の生き物として
自分の体をこの世へと連れてくる。めざめの空気だねえ。


2024/12/20

まあいいか生涯一度も骨折をしないであはや死ぬところだつた/永田和宏

 まあいいか生涯一度も骨折をしないであはや死ぬところだつた/永田和宏

短歌研究2024年5+6月号より

骨折したことを淡々と詠う連作。冷静で、どことなく
他人事っぽいのがじわじわ実感していくのがおもしろい。
これは最後の歌。まあいいかの明るさ。あはや、は深読みすると、
骨折で済んで良かった、でもあるのかな、とか。
悪い事も、何事も経験、と捉えてるのがいいな。


2024/12/19

夢の中では、光ることと喋ることはおなじこと。お会いしましょう/穂村弘

 夢の中では、光ることと喋ることはおなじこと。お会いしましょう/穂村弘

短歌タイムカプセルより

彼の短歌が分からないことに劣等感がある。
どう言えばいいんだろうな。別に分からないなら分からないでいいのに、
責められてるみたいな気持ちになっちゃう。夢の中なら、
彼に会ってお話しして、光らせたり出来るだろうか。
いつか灯火のように理解できるだろうか。


2024/12/18

足悪きわたしも時に歩きたく杖二本取れば夫が慌てる/前田彌生

 足悪きわたしも時に歩きたく杖二本取れば夫が慌てる/前田彌生


短歌研究2024年5+6月号より

かわいいね。こういう風に齢を取りたいし、こういう夫婦でありたい。
さらっと読んで深く考えてなかったけど杖二本は車椅子生活で
ほとんど使ってないんだろうか。 あ、違う、杖なしで
歩こうとしてるのか。頓珍漢なことを書いてしまった…。
夫が素敵だなぁ。

2024/12/17

いつぽんの桜の不安が桜へと伝染してゆくやがて爛漫/林和清

 いつぽんの桜の不安が桜へと伝染してゆくやがて爛漫/林和清

現代の歌人140より

桜って美しいし好きだけど、確かに何というか焦燥感とか
不安なんかも重なることもあって、どう言えばいいんだろう。
結句の爛漫で無かったことにされちゃうような、
伝染してゆくことの怖さというか。ぱっと明るくなるけど
不安がなくなったわけじゃないよね。うまく言えない…。



2024/12/16

羽毛なす雪ふはふはと降り来れど不惑のこころ重きまひるま/大塚寅彦

 羽毛なす雪ふはふはと降り来れど不惑のこころ重きまひるま/大塚寅彦

現代の歌人140より

そうだよねえ・・・。四十は不惑と言うけれど。雪の軽さと
こころの重さ。ふわふわの雪だって、降り積もれば踏み固まって
重いのだ。人生の折り返しで、まだまだこれからだけど、
ふわふわもしてられないし、掛かる責任の重さに戸惑うのだ。
未だに迷ってばかりだなぁ…。



2024/12/15

やはらかく畳のへりを踏んでゆく猫の足音あのとのなかに覚めたり/大辻隆弘

 やはらかく畳のへりを踏んでゆく猫の足音(あのと)のなかに覚めたり/大辻隆弘

現代の歌人140より

夏の日のうたた寝という感じがする。実際にはそんなに
静かじゃないのかもしれないけど。自分自身も畳の上にごろんと
横になって、だから尚更猫の足音が響いたのかなと。
やはらかく、からまどろんでいくような空気が
結句の覚めたり、で夢現みたいな読後感があって好き。


2024/12/14

点線に沿って切り取るかなしみのこの人もまた味方ではない/松村正直

 点線に沿って切り取るかなしみのこの人もまた味方ではない/松村正直

『桜前線開架宣言』より

何だか心がざらつく歌。かなしみはそんな簡単に
切り取れるものだろうか。この人も「また」。敵味方で考えるなら、
本当の味方なんているんだろうか。小さく裏切って裏切られて、
持ちつ持たれつなんじゃないのか。点線に沿って、が難しいな。
割り切ろうとしてる?


2024/12/13

こうやって春は終わっていくのだと子に告げる夜の風は凪ぎおり/小塩卓哉

 こうやって春は終わっていくのだと子に告げる夜の風は凪ぎおり/小塩卓哉

現代の歌人140より

季節のにおい、と言えばいいのか、終わっていくということは、
始まりの空気もただよわせている。風の優しさ、 というか。
肌で感じる季節の空気。そっか。まさに「こうやって」
告げられていたことに気付くんだな。見守るような風が頬をなでる。
素敵な歌だな。


2024/12/12

わが内の静かなる民たしめよ風の重さに耐える起重機/谷岡亜紀

 わが内の静かなる民起(た)たしめよ風の重さに耐える起重機/谷岡亜紀

現代の歌人140より

上の句がかっこいいなと思って書き写しながら、
漢字の重なりや韻律の良さに気付く。起重機に全て集約されてく感じ。
具現化したような、擬人化されたような起重機。
「た」の音の心地良さ。風の重さ。読めば読むほど上の句が
立ち上がってくる。力強いな。好き。


2024/12/11

かみくだくこと解釈はゆっくりと唾液まみれにされていくんだ/中澤系

 かみくだくこと解釈はゆっくりと唾液まみれにされていくんだ/中澤系

『桜前線開架宣言』より

ああ凄いね。私がこの歌の感想を書くこと自体が
「唾液まみれに」していく。自分の意図しないところへ。
かみくだくことでゆがんで、唾液まみれにされて
いいように飲み込んでいく。吐き出されたとしても、
もうそれは元の形を成してない。自分の事さえ曖昧になる。


2024/12/10

きこえますきこえますいま校庭にだれもいなくて遠い雷/加藤治郎

 きこえますきこえますいま校庭にだれもいなくて遠い雷/加藤治郎

現代の歌人140より

不思議な歌だなぁ。雷と話してるみたいだ。
だれもいないのにきこえるのか、だれもいないからきこえるのか。
遠い雷に見えてるのか。いま、というのもポイントかな。
いま、この瞬間、という感じがする。校庭なのもいいとね。
そこにいるはずの子供たち。静かな歌だね。


2024/12/09

青く奇妙な蝶がことばを話すので夢だと思ふけれど目覚めず/荻原裕幸

 青く奇妙な蝶がことばを話すので夢だと思ふけれど目覚めず/荻原裕幸

短歌研究2024年5+6月号より

夢だと思う、という確信の持てなさと、目覚めないことで
現実かも?と混乱してる感じが、夢の中の世界でおもしろいな。
夢と分かっていても目覚めず、夢の中の行動になってるんだよね。
どうせ夢だし、とならないのが不思議でおもしろい。
蝶のことばは理解できたのかな。




2024/12/08

イヤフォンが外れてゐると気づかずにしづかな朝を味はつてゐた/大松達知

 イヤフォンが外れてゐると気づかずにしづかな朝を味はつてゐた/大松達知


『桜前線開架宣言』より

何か作業をしながら、気づけば朝で、しんとした朝の空気に
身を置いている。いつの間に外れていたのか、
無意識に外してしまったのか、分からないくらい集中してたのかな。
眠れずに、ただぼんやり…もあるかな。イヤフォンで遮断した
内と外の世界が繋がっていく。


2024/12/07

神は滝であるといふしづけさははるかな日あまた苦しむ人を救へり/米川千嘉子

 神は滝であるといふしづけさははるかな日あまた苦しむ人を救へり/米川千嘉子

現代の歌人140より

すごい字余りなのにするっと違和感なく読めちゃう。
どう言えばいいんだろう。ひらがなの流れがどことなく滝を思わせて、
しづけさの深さとか、はるかな日の悠久さが神に繋がっていく。
心が洗われていくような気がしてくる。
しんとして、自分も救われてると感じる。




2024/12/06

おほ雪ののちの晴れ間は稼ぎ時あちこちダンプが除排雪する/大朝暁子

 おほ雪ののちの晴れ間は稼ぎ時あちこちダンプが除排雪する/大朝暁子

短歌研究2024年5+6月号より

そんなな季節になってきたねえ…。今は人手不足で大変そうですよ。
今もそんなに稼げるのかなぁ。昔は冬だけで一年分稼いでたと聞いた。
今はダンプも足りてないらしい。大変な仕事だよねぇ…。
大雪のあとのきれいな道は本当にありがたい。感謝です。


2024/12/05

「ぴんぴんころり体操」死ぬための体操なれど広まる町に/川野里子

 「ぴんぴんころり体操」死ぬための体操なれど広まる町に/川野里子

現代の歌人140より

そう言われると確かに…笑。結句がいいよねえ。
倒置法に見えるけど言い差しのような気もしてくる。
何か、言い差しの方が物語が始まりそう。町全体が明るいよね。
 元気で居られるのは良いことよね。でも実際ぴんぴんころりで
死んだら、まだ死ぬはずじゃなかったのにって思いそうだな。
体操と死の結びつきがいいな。

2024/12/04

みいのちのきはに想ほす色ふかみわがスカーフの紫を言います(追悼春日井建)/水原紫苑

みいのちのきはに想ほす色ふかみわがスカーフの紫を言います(追悼春日井建)/水原紫苑

現代の歌人140より

この歌について何か書くのはおこがましいけれど。
前に書写した春日井建の歌の返歌なのかなと思った。
お名前に入ってる紫。師への想い。私の言葉じゃ何を書いても
軽々しいな…。ただ一人に届ける歌は、ただ一人だけ
分かればいいのかもしれない。心を揺さぶられる歌だ。




2024/12/03

信号の渡れの音が響きたる朝わが身の心の音か/佐藤モニカ

 信号の渡れの音が響きたる朝わが身の心の音か/佐藤モニカ

短歌研究2024年5+6月号より

これはその日の気分によって音の聞こえ方が違ってきそうだね。
鼓舞するような気持ちの時もあれば、急かされてるような、
責められてるような気になることもありそう。でもどっちにしても
しっかりしろと言ってるかな。変わらない音だからこそ、
心の音になりうる気がする。


2024/12/02

めざめれば又もや大滝和子にてハーブの鉢に水ふかくやる/大滝和子

 めざめれば又もや大滝和子にてハーブの鉢に水ふかくやる/大滝和子

現代の歌人140より

そりゃそうだ、なんだけれども。何というか、めざめた瞬間から
昨日の決意はどこへ、みたいな日があるよね。 やっぱりお前は
そういう奴だよ、という自分自身へのがっかり感かなぁと思った。
別人になりたいと思いながらもいつもと変わらぬ日常が始まる。
この歌好きだなぁ。


2024/12/01

おのづからきのふは過去へと流されてひとりとり残さるる原つぱ/山本和可子

 おのづからきのふは過去へと流されてひとりとり残さるる原つぱ/山本和可子

短歌研究2024年5+6月号より

昨日の歌から続いてるような一首。とり残さるる、の焦燥感…
うー違うな…。昨日の自分と今日の自分。前に進めない、
でもないよね。おのづから、にある今の自分と、
やがて過去になる自分、かな。過去になってしまった人たちでも
あるのかな。原っぱの風景がいいな。


2024/11/30

死はいつかこの湿原へかへることまたあふぎ見ぬキラコタン岬/坂井修一

 死はいつかこの湿原へかへることまたあふぎ見ぬキラコタン岬/坂井修一

現代の歌人140より

私にとってのこういう場所はトドワラだなぁ。
結句をトドワラにしたら、私のための歌なんじゃないかと
錯覚してしまうくらい。人生最後の旅行はトドワラと決めている。
圧倒される風景がある。何の根拠もなく、
魂はここへ帰ってくるような気がするんだ。いつか、かへる場所。





2024/11/29

晩秋のひかり湛へるみづうみを心に住まはせ部屋ごもりする/宮本永子

 晩秋のひかり湛へるみづうみを心に住まはせ部屋ごもりする/宮本永子

短歌研究2024年5+6月号より

一読して好き!!となって勢いで書写したけど、本当に好き、
しか出てこないな…。秋の空気。春が新しい事を始めたくなる
季節だとしたら、秋はそうやって湛えたみづうみを活かす季節かも。
秋の夜長だねぇ。暮れの忙しさが近づいてきて、
みづうみの静けさが心を癒やす。


2024/11/28

風を打つ雨を見てをり 雨を吹く風を見てをり 壊れさうだな/小島ゆかり

 風を打つ雨を見てをり 雨を吹く風を見てをり 壊れさうだな/小島ゆかり

現代の歌人140より

最後の壊れそうだなは自分自身のことかなと。
それなりに強い雨風をただ見つめている自分。
そこにあるのは雨と風だけで、普通に考えれば壊れそうな
建物が見えてきそうなのに、この歌では雨と風が壊れそうだと
思えてくる。そう思う自分の心の揺らぎ。


2024/11/27

不安げなる顔して病室に入りくるむすめよここだ父はここにゐる/一ノ関忠人

 不安げなる顔して病室に入りくるむすめよここだ父はここにゐる/一ノ関忠人

現代の歌人140より

子供の頃、親が入院すると、このまま死んじゃうんじゃないかと
不安だった。きっとそんな顔をしていたのだろう。
父のまなざしの優しさ。そして父自身の不安。
むすめにあんな顔をさせてはいけないと、病で気弱になった心を
奮い立たせてくれたんじゃないだろうか。


2024/11/26

つれづれに読む広辞苑 〈原子力発電〉のつぎに〈原始林〉あり/大松達知

 つれづれに読む広辞苑 〈原子力発電〉のつぎに〈原始林〉あり/大松達知

『桜前線開架宣言』より

思わず確認しちゃった。つれづれに、が効いてるよねえ。
ふと目に飛び込んできて、はっとする。ただの並び順なんだけど、
何だかそこに意図があるように感じてしまう。
心の持ちようって凄いな。うまく説明できないな。
無から有を勝手に見出して考えてしまう。でも気付きでもある。


2024/11/25

水鳥を「水鳥ちゃん」と呼ぶひとがここはこの世の果たてだと言う/笹川諒

 水鳥を「水鳥ちゃん」と呼ぶひとがここはこの世の果たてだと言う/笹川諒

短歌研究2024年5+6月号より

実は名字なんじゃないかなと思ったよ。
それでも水辺に立つ人と水鳥が見えてくる。思い浮かんだのは野付半島。
潮が満ちて、今歩いていた道が隠れる。揺れる水鏡に映る空と人々。
浮かぶ水鳥。ふともう戻れなくなるんじゃないかと思う。
果たてという言い回しがいいな。


2024/11/24

ダリとガラ 二十世紀はおおらかな蜜流しつつ苦しみながし/中津昌子

 ダリとガラ 二十世紀はおおらかな蜜流しつつ苦しみながし/中津昌子

現代の歌人140より

どの時代も、それぞれの苦楽があっただろうけど、
この二人の時代背景というか、光と影?激動の時代で、でも
「おおらか」でもあったのかなと。良くも悪くもね。
私には良く分からない関係だけど、二人にしか分からない
蜜と苦しみを流しあってたのかな。今気付いたけど、
最後の「ながし」は「永し」か!二十世紀の長さと。


2024/11/23

一日にたった五分の健康に良い体操を初日でやめた/工藤吉生

 一日にたった五分の健康に良い体操を初日でやめた/工藤吉生

短歌研究2024年5+6月号より

この歌が好きすぎる笑。この歌のおかげでもうちょっと
頑張ってみようという気持ちになる。結局は三日坊主なんだけど…。
言い訳だけど、やってみないと続くかどうか分からないし、
やってみただけ偉いよね。やれば何かのきっかけで
再開するかもしれないし。心強い歌。


2024/11/22

わが招き猫よおまえとただに在るだけの日を多めにしておくれ/雪舟えま

 わが招き猫よおまえとただに在るだけの日を多めにしておくれ/雪舟えま

短歌研究2024年10月号より

凄いな。小説のような連作だと思ったら、
同タイトルの小説があるのね。物語としてのファンタジーが、
一首になった時に現実の比喩に見えてくる不思議。
この歌も、 人を猫に例えてるのかなと。
ある日フラッといなくなるかもしれない。
いなくなることを受け入れてもいる。


2024/11/21

女は子を産むべきものと脳髄のどこかで復唱してゐる われも/久我田鶴子

 女は子を産むべきものと脳髄のどこかで復唱してゐる われも/久我田鶴子

現代の歌人140より

結婚して子を産むのが女の幸せという価値感の時代があって、
今はそれだけじゃない、そうではないと思ってはいるけれども、
染み付いた価値感はそう簡単には消えない。
どこかで復唱している、と、言葉の端々ににじみ出てしまうのだろう。
最後のわれも、に打ちのめされる。


2024/11/20

ひとの死ぬるは明るいことかもしれないと郭公が鳴く樹の天辺で/渡辺松男

 ひとの死ぬるは明るいことかもしれないと郭公が鳴く樹の天辺で/渡辺松男

現代の歌人140より

静かに静かに誰かの死を思って、自分の死を思うよ。
春を告げる郭公。残された者。自分の余命?明るいことで
あってほしいという願望?郭公は托卵する。何を残すのか。
樹の天辺で周りを見渡して何を見ているのか。
見上げる私に郭公の姿は見えるかな。鳴き声が響く。


2024/11/19

人はみな霧のごとくに過ぎゆきぬ白木蓮の花咲きにけり/山埜井喜美枝

 人はみな霧のごとくに過ぎゆきぬ白木蓮の花咲きにけり/山埜井喜美枝

現代短歌文庫より

命の短さかなぁ。短さというか、はかなさ?
いつかは訪れるものなのに、突然と思ってしまうよね。
霧のごとくに、のかすんでゆくような景色と、
ふと気付けば咲いている白木蓮との間に流れる時間。
自分の感情が追い付いていかない。白木蓮の白さが眩しい。


2024/11/18

泡立てしシャボン溢るる手の平におぼれもせずに顔洗うひと/梅内美華子

 泡立てしシャボン溢るる手の平におぼれもせずに顔洗うひと/梅内美華子

現代短歌の鑑賞101より

おぼれてしまう人もいるのかな?と一瞬錯覚してしまうけど、
おぼれてしまいたいという自分の願望かな。
洗い流す=水に流すより、いっそおぼれて消えてしまいたい。
水の泡にも掛けてる?シャボンの泡で逃げられない、
おぼれることもできない。苦悩や後悔?難しいな。


2024/11/17

駐車場となりたる友の家を過ぎわたくしの影また一人消ゆ/尾崎まゆみ

 駐車場となりたる友の家を過ぎわたくしの影また一人消ゆ/尾崎まゆみ

現代の歌人140より

家人が変わったとしても、家としてあれば確たる記憶として
残りそうだけど、更地、駐車場になってしまうと、
おぼろげになっていくような気がする。まさに、という
下の句だなぁ。大人になって変わってゆく街並み。
自分もまた変わってるんだよね。良い歌だなぁ。


2024/11/16

ほんとうに若かったのか 噴水はゆうやみに消えあなを残せり/吉川宏志

ほんとうに若かったのか 噴水はゆうやみに消え孔(あな)を残せり/吉川宏志

現代短歌の鑑賞101より

若さと幼さの違いかな。若気の至り、みたいな。何か違うな…。
水の止まった噴水。何だろうな。ゆうやみの暗さ。もう戻らない
キラキラとした時間。あれ?違うか。 若かったのに、
何もしてこなかったという後悔?自分の中にある噴水。
何に対する疑問だろう。難しいな。


2024/11/15

孤独にて生きよと葉書にありしこと十五年後のわれを支える/中川佐和子

 孤独にて生きよと葉書にありしこと十五年後のわれを支える/中川佐和子

現代の歌人140より

人生って答え合わせだなって思うよ。良いことも悪いことも。
その時はピンと来なくても、時を経て気付くこと。過去が今に
繋がって、今は未来へと運ばれる。この葉書をくれた人のこと。
その人の孤独と十五年後のわれの孤独。支えるものの大きさを知る。


2024/11/14

うたがはぬ力授かり生まれし君らに母といふ泥の床/辰巳泰子

うたがはぬ力授かり生まれし君らに母といふ泥の床/辰巳泰子

現代短歌の鑑賞101より

幼い子にとって、母は世界だ。いつしか母も一人の人間と知る。
泥の床。体内から生まれたという生々しさと、けっして
落ちることなく足もとに広がるぬかるみ。ああそうか。
最初に疑う人間は母か。そこから泥の床へ。母は呪縛だと思うのは、
私が良い母でも子でもないからだろうな。


2024/11/13

大粒の雨降り出して気付きたり空間はああ隙間だらけと/栗木京子

 大粒の雨降り出して気付きたり空間はああ隙間だらけと/栗木京子

現代の歌人140より

パタパタと地面に落ちる雨。大粒の雨が濡らす場所。
すべてを覆うわけではない。どうやって書いたら良いんだろう。
ああ、とストンと落ちてくるような気付き。完璧ではないこと。
息苦しさから開放されるイメージだ。隙間がある、ではなく、
隙間だらけ。気付いて良かった。


2024/11/12

裏切つてしかも生くるが愉しみよあなたもきつとさうだとおもふ/紀野恵

 裏切つてしかも生くるが愉しみよあなたもきつとさうだとおもふ/紀野恵

現代短歌の鑑賞101より

上の句で、何て怖いことを言うんだと思いながら
下の句に入ると、まっすぐ読み手の私に指を差してくる。
いやそんなことはとうろたえながら、本当に?と心の奥の自分が囁く。
人は小さな裏切りを繰り返しながら生きてるのかも。
裏切られても生きてゆく。生きるって難しいね。


2024/11/11

鳥に影樹樹に眠りのあることを風よ告ぐべし未生の者に/内藤明

 鳥に影樹樹に眠りのあることを風よ告ぐべし未生の者に/内藤明

現代の歌人140より

魂ってこうやって受け継がれていくのかな。吹く風の優しさと厳しさ。
人間も自然の一部なのに、鳥のことも樹のことも、
ときどき忘れてしまう。未生の者に、がいいよねぇ…。
自分もいつか風になれるかな。言葉が出てこないな。
ずっとこの景色を見ていたい。


2024/11/10

今日までに私がついた嘘なんてどうでもいいよというような海/俵万智

 今日までに私がついた嘘なんてどうでもいいよというような海/俵万智

現代短歌の鑑賞101より

慰めを得る為に行った海、と読んだけど、
書きながら突き放されてるかも?とも思う。
海なら受け入れてくれそうな気がするという人間の都合と、
そんなのは聞きあきたという海。結局は虚しさだけがつのっていく。
海の広さが自分の心を暴いていく。自分と向き合う。