2024/07/31

間に合わない夜よ、間に合わない夢よ、間に合わなかった葛根湯よ/穂村弘

 間に合わない夜よ、間に合わない夢よ、間に合わなかった葛根湯よ/穂村弘

短歌研究2024年5+6月号より

何かの予定?約束事?があって、その日までに準備しなきゃいけないのに
風邪を引いてしまって治りそうにない感じなのかな?
最後に過去形になるのが絶望感というか悲壮感が漂って、
かわいそうなんだけどちょっとくすっとしてしまう。
寝込んでしまった夜を思うよ。


2024/07/30

皮つきの牛蒡油に入れるときかすかな音す今日のよろこび/さいとうなおこ

 皮つきの牛蒡油に入れるときかすかな音す今日のよろこび/さいとうなおこ

短歌研究2024年5+6月号より

もー本当にこういう歌大好き。
誰かの何気ない日常が特別に感じてしまうけど、
私の何もない日常も誰かから見れば違う景色が広がっているのかも。
揚げ物の音が今日のよろこびに繋がっていくのがいいな。
ふわっと広がっていく感じ。静かに響く拍手のようだね。


2024/07/29

人類の終着点が見えて来た 人類は何度思つただらう/香川ヒサ

 人類の終着点が見えて来た 人類は何度思つただらう/香川ヒサ

短歌研究2024年5+6月号より

こうやって歴史は進んでいくんだろうね。
全人類にとって幸せな場所はきっとなくて、
また新たな道を作っていくんだろう。終着点が暗く感じるのは、
今の世の中が暗いからかな。うん、でも良い事も悪い事も飲み込んで、
良い方の終着点を見つけていくんだと思いたい。

2024/07/28

戦火(いくさび)に追われしことなし大地震(おおない)に遭いしことなし 残生いくばく/久々湊盈子

 戦火(いくさび)に追われしことなし大地震(おおない)に遭いしことなし 残生いくばく/久々湊盈子

短歌研究2024年5+6月号より

もちろん、ないに越したことはないし、幸せなことだと思うんだけど、
どこか後ろめたさみたいなものを感じてしまう。
この先のことはわからない。残生いくばく、は祈りと後悔かな。
戦火とか地震とかじゃなくてもさ。
自分の歩いてきた道と、残された道の先を思うよ。

2024/07/27

花にみな目を奪はれて僕だけは心だけでも守らなければ/山木礼子

 花にみな目を奪はれて僕だけは心だけでも守らなければ/山木礼子

短歌研究2024年5+6月号より

難しいけど心惹かれる歌。
みなと僕、目と心、奪うと守る。僕だけは、心だけでも、という範囲。
美しいものに捕らわれてしまうことの危うさ、かなぁ。
流されてしまいそうな違和感があって飲み込まれそうなのかな。
多数が正しいわけではない。人と違うことの苦悩?

2024/07/26

脳内に「どうして」と問う子があってどうしたものかモップをかける/工藤吉生

 脳内に「どうして」と問う子があってどうしたものかモップをかける/工藤吉生

短歌研究2024年7月号より


どうしたものか、の困惑具合が絶妙だねえ。
脳内だから、 自分自身であり、自分ではない誰か。
そこから発せられる問い。モップをかけるという静かな動作が
脳内を振り払うように塵を集めていく。
子は過去の自分でもあるかな。
向き合えずにいるけど答えは分かってる感じ?

2024/07/25

ゴミの日にゴミを出すこと忘れればしっかりしろと臭う生ゴミ/俵万智

 ゴミの日にゴミを出すこと忘れればしっかりしろと臭う生ゴミ/俵万智

短歌研究2024年5+6月号より

心が弱ってる時に、あたりまえのことに意味を持たせてしまうのは、
その心を守るためなのかもしれない。
何があっても過ぎてゆく日常と、追い付かない自分の感情。
不浄のものに励まされて、でもそれが日常に戻ってくる合図なのかも。
いつまでも留まるわけにはいかない。

2024/07/24

指先にヨックモックのシガールを吹き抜けていくうわさばなしよ/山階基

 指先にヨックモックのシガールを吹き抜けていくうわさばなしよ/山階基

短歌研究2024年5+6月号より

書かれていないことをあれこれ想像しすぎるのは良くないと
分かってるけど、会社の休憩室がぱっと思い浮かんだよ。
吹き抜けていく、が絶妙だよねえ。
言う方も聞く方も話半分、みたいな雰囲気。
頂き物のお菓子に宿って?残って?しまったうわさばなし。
うまいなあ。

2024/07/23

酒断ちて要無くなりし徳利に連れ合いが今朝は薔薇を活けたり/楠田立身

 酒断ちて要無くなりし徳利に連れ合いが今朝は薔薇を活けたり/楠田立身

短歌研究2024年5+6月号より

素敵だねぇ。いい具合に年季が入って趣がありそう。
今朝「は」がいいよねえ…。「、」でも「も」でもなく、
本当に身近な、庭の花や季節の花が日常として活けられている。
自分にとっては要の無い徳利が連れ合いによって活かされる。
わ、こここに繋がるんだ。凄い。

2024/07/22

さりげなくわが背(せな)を押しこそばゆし夢のもつれのような春風/小高賢

 さりげなくわが背(せな)を押しこそばゆし夢のもつれのような春風/小高賢

現代の歌人140より

私は春が好きすぎる…。
背を押すのが誰なのか、最後に明かされるのがいいよね。
ベルバラの台詞じゃないけど、 春風のような人が隣にいるのかもと思ったり。
誰かを思わせる風なんだろうな。夢のもつれの諦めきれなさとか希望とか。
それでも背を押す。こそばゆし、が全てだ。

2024/07/21

スマホにて決済すれば早いです 出来ぬからここにいるのだ/玉井清弘

 スマホにて決済すれば早いです 出来ぬからここにいるのだ/玉井清弘

短歌研究2024年5+6月号より

これねぇ…。出来ない人をないがしろにしてる感じがして辛いなぁ。
世の中のスピードが早すぎて、便利なんだろうけど、
ふるいにかけられてる気持ち。ついていけない人は
世間から外れるような社会になりませんように。
今の自分への戒めであり、未来の自分でもある歌だ。


2024/07/20

午前二時からしか買えぬオムライス買って妻へとわれを届ける/屋良健一郎

 午前二時からしか買えぬオムライス買って妻へとわれを届ける/屋良健一郎

短歌研究2024年5+6月号より

「ウイスキー飲めば」から始まる連作で、書写した歌が最後の一首。
これはもう五首一組って感じ。ゆっくりと酔いながら更けてゆく。
このわれを届ける、がいいよね。 妻への甘え?
オムライス買ったから帰らなきゃ、みたいにも見えるね。
妻に怒られるんだろうな。かわいいな。

2024/07/19

西行忌利休忌茂吉忌きさらぎのしとしと雨は日がな降ります/青木昭子

 西行忌利休忌茂吉忌きさらぎのしとしと雨は日がな降ります/青木昭子

短歌研究2024年5+6月号より

二月って暦上は春だけど、まだ寒さの方が強くて冬に近い。
しとしと雨が良いなあ。それぞれの忌日をふと思い出すような、
一日のどこかで、一瞬でも気付けばそれでいいと思えるような、
そんな雨。涙雨ではない。二月の冷たい雨と、過ぎれば訪れる春。
偲ぶってこういうことかも。

2024/07/18

君たちはどう生きるか、と問われたら 余儀なくされる、と独り言(ご)つのみ/小塩卓哉

 君たちはどう生きるか、と問われたら 余儀なくされる、と独り言(ご)つのみ/小塩卓哉

短歌研究2024年5+6月号より

どれだけの人が、確たる信念を持って、それを曲げずに
生きているというのだろう。何が正しくて幸せと言えるのか。
人生とか生き方とか言われると、いつも「人生に意味なんてない」
という台詞を思い出すよ。ただ流されてる訳ではないけれど、
遡上もできない。

2024/07/17

露ほども老いの自覚の我に無し近付く春に心浮き立つ/井谷まさみち

 露ほども老いの自覚の我に無し近付く春に心浮き立つ/井谷まさみち

短歌研究2024年5+6月号より

ちょっとした強がりかなぁ。春が来る。春を待つ。季節が巡る。
そうやって年を重ねてゆくけれど、
老いとはまた違うところにあるように感じる。
老いを遠いところへ追いやって「近付く春に心浮き立つ」。
とても明るくて、春の生命力が自分を照らす。
良い歌だな。春っていいな。

2024/07/16

とりあえずここまでやっておこうかととりあえずここがここまでのまま/沖ななも

 とりあえずここまでやっておこうかととりあえずここがここまでのまま/沖ななも

短歌研究2024年5+6月号より

ああー・・・耳が痛い・・・。気持ちはあるのよ?
何ならここまでやっただけ偉い。
とりあえずここまで、の積み重ねが出来れば良いんだけどねぇ。
この歌の、全部平仮名で間延びした感じが
ズルズル先延ばしされていくようで、
心が痛むというか。小さな自己嫌悪?分かってるのよ?

2024/07/15

はなっから留守と決めたる町内が回覧板をドアに押し込む/吉岡正孝

 はなっから留守と決めたる町内が回覧板をドアに押し込む/吉岡正孝

短歌研究2024年5+6月号より

昔は手渡しだったよね。この歌の言葉選びにはっとする。
隣人じゃなくて町内、差し込むじゃなくて押し込む。
はなっから、ににじみ出る不快感とまではいかないかも
しれないけど淋しさのような感情。
こうやって見ると、町内が空っぽで無機質だ。
自分が居なくなりそう。

2024/07/14

ライブ観て痺れたようにやさしさに包まれたならを口ずさむ波/社領美穂

 ライブ観て痺れたようにやさしさに包まれたならを口ずさむ波/社領美穂

短歌研究2024年5+6月号より

ユーミンのライブへ行った連作。この歌の、流れが良いよねぇ…。
途中まで、曲のタイトルと気付かなくて、結句ではもう
頭の中で曲が流れていて一緒に口ずさんでる。
波はきっと街の中や人々のさざめき。ライブのあとの景色は、
まだ夢の続きみたいだ。ふわふわと波に揺れる。



2024/07/13

先生に届け!と世界の人たちが空に手のひら見せる辰年/笹公人

 先生に届け!と世界の人たちが空に手のひら見せる辰年/笹公人

短歌研究2024年5+6月号より

そうか。辰年だ。私は特別彼のファンではなかったけれど、
あたりまえに先生の作品が溢れて触れていた世代だ。
アニメもゲームもイラストも。軍人の絵が凄くて衝撃だったな。
思いってちゃんとここに残るんだな。どう書けばいいのかな。
祈りと願いと。皆が同じ方を見てる。次に来る歌も良かった。

墜ちてくる隕石の軌道ずらさんと全人類が両手挙げる日/笹公人




2024/07/12

袖口がぬれて始まる負の朝も金平糖の突起にすぎず/今野寿美

 袖口がぬれて始まる負の朝も金平糖の突起にすぎず/今野寿美

短歌研究2022年5月号より

何も考えずに水にぬれた、だと思って書き始めたけど、
涙にぬれた?感が鈍くて嫌になっちゃうね。
朝日が金平糖に見えて素敵。
そしてその突起はぬれればすぐにほどける。
些末なことだときっと思える。また一日が始まる。
いつか甘い思い出になるのかな。うまく言い表せない…。

2024/07/11

生き方を選べなかった年上の人の呪いをやさしく破る/ショージサキ

 生き方を選べなかった年上の人の呪いをやさしく破る/ショージサキ

短歌研究2024年7月号より

この歌の真意は何だろう。胸がざわつく。
あなたの呪いを私は受け取りませんよという宣言だよね。
選べなかった、なのに、選ばなかった、に聞こえてしまうのは、
私が「年上の人」の立場で読んでしまったからかも。
悪い方に取っちゃったけど、破いてくれてるのかもしれないね。

2024/07/10

西日射すミモザかがやき白壁にうつる万朶の影を濃くする/古谷智子

 西日射すミモザかがやき白壁にうつる万朶の影を濃くする/古谷智子

短歌研究2024年5+6月号より

こういう歌大好き。読んだままの情景が頭の中で映像となって、
歌の中に自分が居て、というか入って、同じ景色を見せてもらえる。
西日とミモザがいいよね。色がとけ合う感じがする。
そこから伸びる影の形。壁に映る時間は短くて、
自分も風景の一部みたいで素敵だ。

2024/07/09

泣いているわたくしたちに金継ぎを施すように春の光は/齋藤芳生

 泣いているわたくしたちに金継ぎを施すように春の光は/齋藤芳生

短歌研究2024年5+6月号より

やっぱり私は春が好きだな。
生命が溢れる、というか、 癒やされてゆくというか。
何もかもリセットされるわけではないけれど、
新しいスタートだと思える。春の光は金継ぎなんだと、
その傷を残したままで良いんだと思わせてくれてありがとう。
また好きな一首が増えたよ。

2024/07/08

生きているだから逃げては卑怯とぞ幸福を追わぬも卑怯のひとつ/大島史洋

 生きているだから逃げては卑怯とぞ幸福を追わぬも卑怯のひとつ/大島史洋

現代短歌の鑑賞101より

50年前の歌。当時はどういうふうに読まれていたんだろう。
耐えるのが美徳と言われた時代。
上の句と下の句の間には何が入るのかな。
私は逃げるんじゃなくて、幸福を追うべきだって読んだよ。
人は逃げてると言うかもしれないけど、幸福を追っていいんだ。


2024/07/07

言ひ募ることばつぶつぶひまはりの芯に焦げつくわが思念ある/藤井常世

 言ひ募ることばつぶつぶひまはりの芯に焦げつくわが思念ある/藤井常世

現代短歌文庫より

わーっと言い放ったんだとしても。その言葉一つ一つに思念がある。
言動って、生き様が表れるんだと思う。
根底にあるものは、気付かれないかもしれないし、
知らぬ間に落としてるかもしれない。
あれ?焦げつくってそういうことじゃないかも?
ちょっと分からなくなってきた…。




2024/07/06

明るいかなしさ、それか、かなしい明るさ ホームで今も 手を振っている/千種創一

 明るいかなしさ、それか、かなしい明るさ ホームで今も 手を振っている/千種創一

短歌研究2024年5+6月号より

語順が替わると雰囲気が変わる。それでも悲しみは深くなる。
いつも思うけど、ネガティブな感情って明るい方がしんどいと思うんだ。
自分だけが、暗いところにいる。 明るくて、眩しくて、だから苦しい。
下の句のやりきれなさ。まぶたの裏に映る?残る?風景だよね。




2024/07/05

波に乗るその無理のなき生き方に真鴨は冬を耐えるのだろう/小高賢

 波に乗るその無理のなき生き方に真鴨は冬を耐えるのだろう/小高賢

現代短歌の鑑賞101より

昨日に続きはっとする一首だ。じゃあ自分はどうだろうと考える。
怖がって乗らなかったり、荒波に飛び込んだりしちゃってるかも。
水鳥って水中でめちゃくちゃ足を動かしてるって言うよね。
だからこその無理のなき、かな。案外成るように成るのかな。
波に乗る、が印象的だ。

2024/07/04

育ちたる時間を抱きガリレオの地球のやうに西瓜は光る/草田照子

 育ちたる時間を抱きガリレオの地球のやうに西瓜は光る/草田照子

現代の歌人140より

最後に意外なものが来るのって、やっぱり凄いよね。
意外なのに、説得力を持って最初からそうだったかのように納得する。
短歌って凄いな。人と地球と植物と。
頭の中に浮かぶイメージがゆっくりと変化して、手の中で光っている。
時間の重みも感じられて尊いなと思う。

2024/07/03

折々に人を呑みこみ発つバスは坂上に来て陽を返したり/三枝昂之

 折々に人を呑みこみ発つバスは坂上に来て陽を返したり/三枝昂之

現代短歌の鑑賞101より

これは人生のバスかな。折々で見ず知らずの人々と乗り合わせ、
時々友人知人と偶然あるいは一緒に乗る。
それぞれの場所に行く。陽を返したり、がいいよね。
うまく意味を読めてないかもだけど、何か明るいじゃない。
大丈夫だよって背中を押してくれる感じがする。

2024/07/02

樹の影に入りておのれの影を消すあそびのやうな死があるはずだ/外塚喬

 樹の影に入りておのれの影を消すあそびのやうな死があるはずだ/外塚喬

現代の歌人140より

自分が消えるなら、こういうふうに消えたいなと思うけど、
近しい人がこんなふうに消えたら耐えられるかな。
あの人らしいねって思えるかな。
それとも、誰にも気付かれぬままなんだろうか。
何だか怖くなってきたな。
ふと消えて、 それでも笑顔で手を振るような。

2024/07/01

緑濃き曼珠沙華の葉に屈まりてどこにも往かぬ人も旅人/伊藤一彦

 緑濃き曼珠沙華の葉に屈まりてどこにも往かぬ人も旅人/伊藤一彦

現代短歌の鑑賞101より

私はここに居ていいのかな。
どこにも行かない、行けない自分に後ろめたさを感じている。
私も旅人ですか?ちゃんと歩いてますか?
どこにも往かなくても、最後には曼珠沙華の花は咲くだろうか。
どうしてこんなに泣きたくなるんだろう。
咲かなくても、気付いてもらえるだろうか。