2023/10/31

琺瑯の花瓶に水は張っている君が腰折り謝るときに/遠野真

 琺瑯の花瓶に水は張っている君が腰折り謝るときに/遠野真

短歌研究2023年5+6月号より

どれも難しい歌だった。連作の繋がり、ヒント?みたいなものは
感じて、分かる人はピンと来るんだろうな。これは最後の歌。
水「が」じゃなくて「は」なんだよね。 琺瑯だから外からは見えない。
腰折り、も慣用句のほうかなぁと深読みしてみたり。花は見えない。


2023/10/30

師と仰ぎ五十余年久義を語りますいちにんの一途なる心念/東郷良子

 師と仰ぎ五十余年久義を語りますいちにんの一途なる心念/東郷良子

短歌研究2023年5+6月号より

軽く調べてみたけど誰か分からなかった。
でも師と仰ぐ人がいて、その方について語る機会があるというのは
素敵だし、そういったお話を聞けるというのも幸せなことだと思う。
一途なる心念というのが芯の強さ、思いの深さを感じて、
何となくこちらも背筋が伸びる思いがする。


2023/10/29

雪の夜の小道を往けばじっとりとブルーシートに覆われたもの/道券はな

 雪の夜の小道を往けばじっとりとブルーシートに覆われたもの/道券はな

短歌研究2023年5+6月号より

連作最後の歌。戦争を題材にしたお芝居の観劇。
舞台と座席の遠さ、温度差?のような感情。題材の遠さが、
役者の息遣いで自分に降りかかってくるような感覚。
その世界感が帰りの道まで続くのだ。冷たい雪の夜。
不気味に見えてくるブルーシート。無関係ではいられないのだ。


2023/10/28

末端がどんどん伸びてゆくそんなものがどうやらいのちであった/土井礼一郎

 末端がどんどん伸びてゆくそんなものがどうやらいのちであった/土井礼一郎

短歌研究2023年5+6月号より

どう書けばいいのかな。何でも政治や世相に絡めて考えちゃ
いけないんだけど、そんな風に見えたよ。どんどん伸びて、
でも見向きもされなくて。自分自身を切り捨てていた気もするし、
「そんなもの」を考えたこともなかったのかもしれない。
結句の重さがしんどいな。


2023/10/27

無花果の実りのおもさ持て余す四十半ばを迎える身体/天道なお

 無花果の実りのおもさ持て余す四十半ばを迎える身体/天道なお

短歌研究2023年5+6月号より

色々と不調の出てくる年だよねぇ…。無花果の実がとたんに
子宮や卵巣に見えてくる。持て余す…そうだねえ、
持て余してるんだよね。そういえば無花果には
ホルモンバランスを整える作用があるんだよね。
若い時とは違う不調で、とまどうようなおもさに共感できるな。


2023/10/26

吸われずに自販機のかげ捨てられたタピオカたちの遠泳大会/寺井奈緒美

 吸われずに自販機のかげ捨てられたタピオカたちの遠泳大会/寺井奈緒美

短歌研究2023年5+6月号より

一人だと、あの太いストローに刺して吸い込んで食べるけど、
それでも吸いきれない時もあるよねえ。自販機のかげという
もの悲しさからの遠泳大会。雨で流されていくイメージが
浮かんだ。遠泳大会で軽くなってるけど、 良い状況ではないよね。
捨てられた、という受け身。


2023/10/25

うはのそらなる教室は焼きそばの湯切りのやうにかたむけてみたし/寺井龍哉

 うはのそらなる教室は焼きそばの湯切りのやうにかたむけてみたし/寺井龍哉

短歌研究2023年5+6月号より

教室が、とたんに焼きそばのカップになって面白いね。
かたむけたら、上澄みのようなうわのそらが流れていってくれるかな。
残った生徒たちは、結局ふやけたままだったりしない?
先生の味付けにかかってるのかな。何となく青空が見えて
のどかだけど、先生はつらいね。


2023/10/24

感情を研ぎ澄ませたら言葉ではないあれみたいまぶしいきれい/手塚美楽

 感情を研ぎ澄ませたら言葉ではないあれみたいまぶしいきれい/手塚美楽

短歌研究2023年5+6月号より

あれって何だろうね。でも言葉にしてしまえばとたんに
崩れてしまうんだろうね。まぶしいもきれいも。
これは自分の感情なのかなあぁ。研ぎ澄ませたら、だから
自分か。 自分の感情なのに、どこか他人事のように感じる。
何だろう。まぶしいきれいだけじゃないよね。難しい歌だ。


2023/10/23

かみさま、と心の中で呼ぶたびにまたひとつ糸がほつれる音が/塚田千束

 かみさま、と心の中で呼ぶたびにまたひとつ糸がほつれる音が/塚田千束

短歌研究2023年5+6月号より

呼ぶたびに、自分の心の弱さを晒け出すようで、ギュッと苦しくなる。
でもそのほつれは、自分の弱さに気付く音でもあるんだろうか。
信じているわけではない、でもすがりたくなる。ほつれる度、
疲弊してゆく心。そんな日々を繰り返し立っている。歩いている。
強さと弱さ。


2023/10/22

三月は引き取り手のないペン、消しゴム、俺のため息、捨て、捨て、捨てる/千葉聡

 三月は引き取り手のないペン、消しゴム、俺のため息、捨て、捨て、捨てる/千葉聡

短歌研究2023年5+6月号より

学校の先生。読点があるおかげで、逆にスピード感が増していく感じ。
最後がいいねえ。ため息と一緒にバッサバッサと投げ捨ててる。
ペンや消しゴムって案外なくなっても気にならないのかな?
誰も取りに来ないやるせなさもあるのかな。
ため息の所在なさげな感じが好き。


2023/10/21

悲しみは明るき窓にやってくるがらんとしたるわが背後より/千々和久幸

 悲しみは明るき窓にやってくるがらんとしたるわが背後より/千々和久幸

短歌研究2023年5+6月号より

悲しみや絶望が明るいところに来るって何となく
分かる気がするんだ。自分だけが暗く陰になってゆくような。
下の句の寂しさ。そこにあったはずの、もう戻らない、
失ってしまったものの数々。背中が窓になって、
悲しみが自分に降ってくるみたいだ。悲しい歌だな。


2023/10/20

三十年ものの恋です心にも熟成という作用あるなら/俵万智

 三十年ものの恋です心にも熟成という作用あるなら/俵万智

短歌研究2023年5+6月号より

元彼の歌だけど、今の私には三十年というワードから
推しと重なるな。ある意味恋だしな。熟成、がいいよね。
あの頃と同じ気持ちのわけはなく、でも確かに思い出深くなってる。
過去は過去で、今ではないんだよね。
そういう時の揺らぎを感じる連作だった。好きだなあ。


2023/10/19

絡まったかなしみの糸、アラビアの文字へほぐして日記に散らす/千種創一

 絡まったかなしみの糸、アラビアの文字へほぐして日記に散らす/千種創一

短歌研究2023年5+6月号より

千種さんの異国の歌は、行ったことがないのにその空気が流れてきて、
匂いまで感じられて素敵だ。アラビア語は右から左に
書くんだよね。分からない、あのアラビアの文字がかなしみと
違和感なく結びつく不思議。糸、ほぐして、散らす。
ほどききれないかなしみ。


2023/10/18

まだいけると足が言うから一人なる午後の散歩の距離延ばしたり/玉井清弘

 まだいけると足が言うから一人なる午後の散歩の距離延ばしたり/玉井清弘

短歌研究2023年5+6月号より

この感覚は何か分かるな。ここまで、と思っていたところよりも
遠くへ。どこまでも行けそうな気がする。散歩ってあなどれない。
気持ちが整うというか。一人だからこそ、という気もするなあ。
自分と向き合う。いつもの景色が違って見えてくるような。
いい歌だな。





2023/10/17

エレベーターの中で見頃を言ひ合へば人のこころに咲くさくらあり/田村元

 エレベーターの中で見頃を言ひ合へば人のこころに咲くさくらあり/田村元

短歌研究2023年5+6月号より

エレベーターの中なのがいいよね。短い時間。降りればすぐに
忘れて移りゆく話題。でもそんな会話で一日おだやかに
過ごせる時もある。下の句のひかえめなあたたかさがいいな。
視界が明るくなる感じ。さくらの力って凄いな。
これを書きながらずっとニコニコしてる。


2023/10/16

地面から下は見えないだろうけど牛蒡が生えるぐらいよろこぶ/谷川由里子

 地面から下は見えないだろうけど牛蒡が生えるぐらいよろこぶ/谷川由里子

短歌研究2023年5+6月号より

なかなか凄い比喩だなと思うけど、しっかりと地に足をつけて
立ってる感じと植物、それも牛蒡という泥くささや生命力を
感じて根の伸びるようで何かいいな。じわじわと湧き上がるような
よろこび。それを表に出してないのがいいね。
大きな葉がさわさわ揺れている。


2023/10/15

つづまりは始めに戻ると知りながら予定の時を費やす会議/田中成彦

 つづまりは始めに戻ると知りながら予定の時を費やす会議/田中成彦

短歌研究2023年5+6月号より

結局は何も決まらなかったということかな。
巡り巡ってと感じがする。手短かに済まそうとして、
かえって時間がかかってしまうことってあるもんね。
早く終わるかも、 終わらせたいという気持ちの空回り?
やっぱりなぁという思いも見えて面白いな。急がば回れ。

2023/10/14

鳥たちは旅立ちのうた歌いおり地平涼しく目覚めゆく春/谷岡亜紀

 鳥たちは旅立ちのうた歌いおり地平涼しく目覚めゆく春/谷岡亜紀

短歌研究2023年5+6月号より

今日が休みで良かったと心底思うくらい、書き出せなかった。
どの歌も、頭の奥がしんとする。今の私は、この連作の感想を書く
言葉を持ち合わせていない。どの歌も自分であり、
自分ではない誰かだ。ここにあって、ここにない。
ただ静かに流れゆくそれぞれの時間。


2023/10/13

二月に咲くと知つてゐたのに気づかずに二月なかばを過ぎての桜/田中槐

 二月に咲くと知つてゐたのに気づかずに二月なかばを過ぎての桜/田中槐

短歌研究2023年5+6月号より

忙しかったのかな、と思ったら連作の中に七七日が出てきた。
それはあっという間だろう。いつもなら、いつ咲くかと
気にしながら過ごしていたのかもしれない。気づかずに、
そして気づけば咲いていた桜。急に咲いたみたいで
眩しいだろうなと思う。淋しさを感じる歌。



2023/10/12

木蓮は白のはなやぎ私は愚直のままに老いたしと書き/辰巳泰子

 木蓮は白のはなやぎ私は愚直のままに老いたしと書き/辰巳泰子

短歌研究2023年5+6月号より

愚直のままに、がいいなぁ。なかなか言えることではないなと
思うのは、私に芯がないからかな。木蓮の白。白のはなやぎ。
内側の白さに、自分の心の内を思う。散る時の潔さ。
何かを残してゆくような。書くことって残すことだよね、と
今さらながら思う。


2023/10/11

晴れてゐてよかったけれど雨のなか傘さすすがたも見てみたかつた/田口綾子

 晴れてゐてよかったけれど雨のなか傘さすすがたも見てみたかつた/田口綾子

短歌研究2023年5+6月号より

恋愛の歌だと思うんだけど、連作を通して読むと
自信がなくなってくる。人ですらないような。幻?
「あなた」 がひどく遠い。もう二度と会えない人、かな。
何だかずっと後ろ姿だ。自分の姿もあなたの姿も曖昧だ。
傘をさせば、目印になって見つけられるだろうか。


2023/10/10

髪白く老いたる我のしてみたき遊びの中に焚火守たきびもりあり/高野公彦

 髪白く老いたる我のしてみたき遊びの中に焚火守たきびもりあり/高野公彦

短歌研究2023年5+6月号より

焚火守を調べてみたけどわからなかった。
静かに焚火と向き合うソロキャンみたいな感じかなと思ったけど、
遊び、というのがもうちょっとアクティブな気もする。
いくつになってもアクティブでいたいよね。焚火の火の
優しい燃え方が自分の心の火に見えてきて素敵だ。


2023/10/09

墜ちてゆく梅実の黄の濃く匂ひ誰の眼であったのだらう/高木佳子

 墜ちてゆく梅実の黄の濃く匂ひ誰の眼であったのだらう/高木佳子

短歌研究2023年5+6月号より

怖い。墜ちるという漢字。おちぶれるとかおとろえるという
意味もあるんだね。熟れすぎた実のすえたような匂い。
ボトリと落ちる実が瞬時に眼となってこちらを向いて崩れるような。
思わず自分の目を確かめてしまう。怖いのは、
自分の心を問われてるような気がするからかな。


2023/10/08

怒鳴る人は弱い人それはそうとして来ない人の話をみんな楽しむ/竹中優子

 怒鳴る人は弱い人それはそうとして来ない人の話をみんな楽しむ/竹中優子

短歌研究2023年5+6月号より

容易に想像できて何か嫌だな・・・。立場的には
強い人なんだろうな、とか、それはそうとして、という切り返しと
みんな楽しむという後ろ暗さ。居ない人、じゃなくて来ない人
なのが絶妙だよね。俯瞰して見ているようで、みんなには
自分も含まれていて、暗い気持ちになる。

2023/10/07

戦争を知らぬ世代が謳歌する今の日本を保ちゆきたし/高貝次郎

 戦争を知らぬ世代が謳歌する今の日本を保ちゆきたし/高貝次郎

短歌研究2023年5+6月号より

戦争を知る世代の方の歌。社会詠っていうのかな。
連作で読むと重い。何をどう書けばいいのかな。
戦争がなくても世の中はどこか不穏で、明るい未来が想像できない。
それでも謳歌すると言えるんだろうか。
戦争はなくならないという悲しい現実。
保ちゆきたし。そうだよね。


2023/10/06

天神で買った座椅子が部屋にあり本や部屋着はついそこに置く/染野太朗

 天神で買った座椅子が部屋にあり本や部屋着はついそこに置く/染野太朗

短歌研究2023年5+6月号より

うんうん、あるよねぇと頷いてしまう。つい、という
さりげなさ。本を置いてしまうということは
座ってないんだよね。それとも部屋着とセットでくつろぐ時に
そこに座ってすぐ読めるようにしてるんだろうか。
勢いで買っちゃって持て余してるようにも見えるね。面白い。


2023/10/05

国境を越えてゆくたび鳴る汽笛昭和平成令和西暦/鈴木博太

 国境を越えてゆくたび鳴る汽笛昭和平成令和西暦/鈴木博太

短歌研究2023年5+6月号より

上の句と下の句の境目がいいなぁ。国境が年代の境目と
重なってゆくけれど、最後の西暦でそれが曖昧になる。
人生の歩みみたいだなと思うのは、自分が昭和生まれだからかな。
汽笛の音は、別れにも、希望の音にも聞こえる。何かいいな。
この歌を選んで良かった。


2023/10/04

この部屋にあるものすべて商品であったのだから心しておく/鈴木晴香

 この部屋にあるものすべて商品であったのだから心しておく

裏側にいくつあるかを想像し全部で何個かを答えなさい/鈴木晴香

短歌研究2023年5+6月号より

連作なので、どこの繋がりがあるんだけど、この二首は並びで
セットだと感じたので両方書いた。忘れがちな視点。
むしろ見ようともしてなかったかもしれない。
すべて人の手を介してる。心しておく、が重い。

2023/10/03

寺庭へ浮き立つごとく陽をまとう白木蓮に我がこころ問う/鈴木利一

 寺庭へ浮き立つごとく陽をまとう白木蓮に我がこころ問う/鈴木利一

短歌研究2023年5+6月号より

びっくりした。何を思ったんだろう。急に足もとがぐらついて、
景色が遠ざかってゆくような。白木蓮がやけに神々しく見えてくる。
寺庭だからかな。自分と向き合うのってしんどいなって思う。
春の日差しと木蓮の白が眩しくて痛い。自分を包みこむ白だ。
優しいけど怖い。


2023/10/02

南天の実がなっている いつの日かすべて忘れてしまう今日のこと/鈴木ちはね

 南天の実がなっている いつの日かすべて忘れてしまう今日のこと/鈴木ちはね

短歌研究2023年5+6月号より

過ぎてゆく日常って、こういうものだと思いつつ、
こうやって書き留めれば永遠に残るのではと思ったりもする。
でも記憶って曖昧で、今この瞬間の感情は忘れてゆくだろう。
南天の実が赤くて鮮やかなのに、すべて忘れてしまうという。
自分の記憶ではないのかもしれない。


2023/10/01

馬は夜へ機関車は辞書へ還るのかシュルレアリストの夢の中では/鈴木加成太

 馬は夜へ機関車は辞書へ還るのかシュルレアリストの夢の中では/鈴木加成太

短歌研究2023年5+6月号より

シュルレアリスムといえば、アートを思い浮かべるけど、
文学もなんだね。この連作はきっと、そんな文学を詠んだもの。
教養がないので作家が分かっても作品にピンと来なかったり。
記憶をたぐりよせて調べるのも楽しかった。
分かればきっと視界が広くなる。