2024/09/30

昨日も読んだページと気づくそのままにゆっくり追い越していく三月を/竹中優子

 昨日も読んだページと気づくそのままにゆっくり追い越していく三月を/竹中優子

短歌研究2024年5+6月号より

破調の短歌はちょっと苦手なんだけど、この歌は破調だからこそ
この雰囲気を作ってるなと思う。そのままに、が真ん中にあって、
栞のように下の句へと続く。気付けばあっという間に過ぎる三月。
追い越していくのか置いていくのか。なぞるような時間を追い越していく。


2024/09/29

だとしてもつづけてほしい誰ひとり幸せにしない夜更けの手品/魚村晋太郎

 だとしてもつづけてほしい誰ひとり幸せにしない夜更けの手品/魚村晋太郎

短歌研究2024年5+6月号より

「誰ひとり幸せにしない」って強烈だなぁ。夜更けという孤独。
その願望は誰に向けられているんだろう。手品はまやかしみたいな、
何かの比喩だろうか。あ、手品は自分がしてるのかな。
つづけてほしい、は自分じゃない誰か。
自分は幸せにできないけどあなたは。逆説的な。

2024/09/28

残念なお知らせだけどその煮物同じ味には二度とならない/本条恵

 残念なお知らせだけどその煮物同じ味には二度とならない/本条恵

短歌研究2024年10月号より

家庭料理だねえ。同じように作ってるはずなのに、
びっくりするくらい美味しくできる時があるよね。ちょっとした
さじ加減だったりたまたま使った食材だったり。でもこの時点で
宣言してるのはちょっと不思議。あ、一日置いて味が変わったとか?
何か的外れな事言ってるな…。




2024/09/27

さんさんと夜の海に降る雪見れば雪はわたつみの暗さを知らず/山田富士郎

 さんさんと夜の海に降る雪見れば雪はわたつみの暗さを知らず/山田富士郎

現代短歌の鑑賞101より

雪ってあまりさんさんというイメージはないけど、海に落ちる様子は
そうかも、と思えてくる。海とわたつみが近くて遠いのがいいな。
わたつみと綿摘みを掛けてるのかな。雪=綿、みたいな。海の暗さに
神様の存在が見え隠れして、雪と波が重なって少し怖い。畏怖?


2024/09/26

五十年生きてしまえり五十年過ぎてしまえり光年の億万分の一の一の一ほどの時間/道浦母都子

 五十年生きてしまえり五十年過ぎてしまえり光年の億万分の一の一の一ほどの時間/道浦母都子

現代の歌人140より

結句で急に崩壊するのが抑えきれない感情というか、何だろうな。
それでも短歌にすることの意義と言えばいいのか、
言葉が出てこないな…。もう若くなく、老人には早く、
でもあと五十年生きる確率は低い。宇宙から見れば
視界にすら入らずただ過ぎてしまった時間と言うの。


2024/09/25

犬といふ俗なるケモノは身を絞り月下の舗道に糞をぞひり出す/島田修三

 犬といふ俗なるケモノは身を絞り月下の舗道に糞をぞひり出す/島田修三

現代短歌の鑑賞101より

この前の満月の時のうちの犬かな?夫と
「月が綺麗ですねー」とか言いながら歩いてたのに、
もりもり出すものだから「ほらほら、月明かりに照らされて
綺麗だろう」 とか言われてたわ。犬には関係ないよねぇ。
俗なるケモノと言ってるけどユーモアがあって目線が優しい。


2024/09/24

腰痛は分厚い沼のごとく攻むあたまからうじて沼面にうかぶ/小池光

 腰痛は分厚い沼のごとく攻むあたまからうじて沼面にうかぶ/小池光

現代の歌人140より

腰痛が的確すぎる笑。体の動かし方忘れちゃった?っていうくらい、
どこを動かしても痛い。痛くないはずの部位も鈍くて重い。
本当に深い沼じゃなくて分厚い沼なのが共感しすぎて何度も領いちゃう。
下の句も、痛すぎてロ数が少なくなってる様子が出てて、
辛さが伝わってくる。


2024/09/23

来世などあるべくもなしうつし世は天の花降るけふの日大事/山埜井喜美枝

 来世などあるべくもなしうつし世は天の花降るけふの日大事/山埜井喜美枝

現代短歌文庫 山埜井喜美枝歌集より

私は今日を大事に生きてないなと反省した。
何だか年々雑になってるような気すらする。
人生に遅すぎることはないと言うけど、どんどん身体と気力が
ついていかなくなるし、できるうちに動いた方がいいよね…。
来世があるとは私も思ってないけど、この歌みたいに生きられるかな。



2024/09/22

水滴を閉じ込めたままいくつものビニール傘が傘立てに立つ/嶋稟太郎

 水滴を閉じ込めたままいくつものビニール傘が傘立てに立つ/嶋稟太郎

歌集『羽と風鈴』より

いつ読んでも凄い歌集だなぁ。風景を切り取って、一枚の写真や
絵画のように一首が佇む。ただ見たままの景色が、ややもすれば
見たことさえも忘れてしまうような、 何気ない日常が
そこにあるということを、私はどれだけ見落としているんだろう。
…ひどい文章だな…。
透明な歌の数々が日々の生活を際立たせてゆく。素敵な歌。


2024/09/21

あなたから見える私のなにひとつ許せず坂をくだればタ日/塚田千束

 あなたから見える私のなにひとつ許せず坂をくだればタ日/塚田千束

歌集『アスパラと潮騒』より

私はずっと、自分自身を好きになれず、自分の事を許せずにいる。
でもそれはそばに居てくれる人に失礼だし、
短所は長所であることも分かってる。
どうしようもない自己嫌悪でくだった坂の先にあった夕日は
美しく見えただろうか。なおも自分を責めるだろうか。
あなたから見える私を私はいつか知り得ることができるだろうか。


2024/09/20

絶望が来てやはらかな夕焼が来てことばではないものが来る/荻原裕幸

 絶望が来てやはらかな夕焼が来てことばではないものが来る/荻原裕幸

歌集『永遠よりも少し短い日常』より

いつも思うけど絶望って明るいと思うんだ。でもこの歌の夕焼は絶望とは遠いところにあるように思う。絶望ではないと気付かせてくれたのかな。絶望の中の光。下の句がいいよね。言い表せないものが自分を覆う。自分の心に折り合いをつけるのって難しい。良い歌だな。好き。


2024/09/19

産むならば世界を産めよものの芽の湧き立つ森のさみどりのなか/阿木津英

 産むならば世界を産めよものの芽の湧き立つ森のさみどりのなか/阿木津英

現代短歌の鑑賞101より

痛烈。ものすごい衝撃なのに私はそれを言い表す言葉を
見つけられない。人間の小ささ愚かさ、自然の大きさ、
ものの芽がものの怪に見えてしまうこと。産むことと生むこと、
世界とは。さみどりの初々しさが世界の始まりみたいだ。
湧き立つの神々しさ。世界を産めよ、とは。


2024/09/18

秋空は骨の触れあう音ひびき長く日本の国に棲みおり/佐伯裕子

 秋空は骨の触れあう音ひびき長く日本の国に棲みおり/佐伯裕子


現代の歌人140より

秋のカラッとした空気、お彼岸、終戦、戦後の日本。
何の違和感もなく「骨の触れあう音」が聞こえてくる。
下の句が、個人ではなく先祖代々、魂?棲むという漢字が
逃れられないようなしがみつくような、他人のような自分のような。
この胸に迫るものは何だろう。

2024/09/17

青豆のごはんを炊けばゴンドラから雪野に帽子を落とした記憶/米川千嘉子

 青豆のごはんを炊けばゴンドラから雪野に帽子を落とした記憶/米川千嘉子


短歌研究2024年5+6月号より

人の記憶って、とんでもないところから呼び戻される。
青豆は帽子の色だろうかとか、炊き上がりのごはんと雪野の
雪けむりとか。人の記憶を覗くようで不思議な気持ちになる。
本人しか、あるいは本人にも分からない記憶のスイッチ。
また違う記憶へ繋がっていくのかな。

2024/09/16

もういない人のことばがもういないわたしを生かす 千年生きる/石井僚一

 もういない人のことばがもういないわたしを生かす 千年生きる/石井僚一

短歌研究2024年5+6月号より

もういないわたし、か。今に生きてる人という感じがする。
過去のわたしを生かすのは、自分のことばじゃなくて、
もういない人のことばなのかなと。ああ違うな。
自分がいなくなったあとも歌に残る。千年前から受け継がれて、
千年後も生きてゆくんだ。言葉って強いな。


2024/09/15

さらさらと朝日は届く、貧者にも富者にも博士にも博徒にも/高島裕

 さらさらと朝日は届く、貧者にも富者にも博士にも博徒にも/高島裕


短歌研究2024年4月号より

朝日がさらさらって、まっさらという感じがして柔かくくてきれいだ。
同じ朝日だけど、同じではないんだなとか、どう言えばいいのかな、
どこかに、何かに属する以前に一人の人間であること。
ちょっと解釈が壮大すぎるとは思うけど、朝日はいつだって
始まりを照らしてくれる。

2024/09/14

なんといふ暗きこの世ぞ蟬どもが樹々に止まりてつつぷして鳴く/池田はるみ

 なんといふ暗きこの世ぞ蟬どもが樹々に止まりてつつぷして鳴く/池田はるみ

現代短歌の鑑賞101より

古語からのつつぷして、で、蟬どもが人々になって、不気味というか、
背中がゾワゾワする。自分もこの樹に止まる蟬なのかな、とか、
いや、そういう蟬を見て暗きこの世が色濃くなっていくのかな、
とか。蟬の声が耳の後ろに張り付いて夏の明るさを不安にさせる。


2024/09/13

灯にひかる夜の雨脚も見たるのち少し満ちたる心にて眠る/藤井常世

 灯にひかる夜の雨脚も見たるのち少し満ちたる心にて眠る/藤井常世

現代短歌文庫より

静かな雨だねえ…。雨脚も、の「も」が気になる。
少し満ちたる、の満たされない感じが上の句をより美しく
幻想的にしてるなぁと思う。一日の終りを暗いままで終わらせず、
前向きに、明日のためにしていく。思いがけず心に灯る。
雨脚が砂時計みたいだ。

2024/09/12

胸のうちにわが飼ふもののほそほそと声立てて泣く 泣かせておかう/秋山佐和子

 胸のうちにわが飼ふもののほそほそと声立てて泣く 泣かせておかう/秋山佐和子

現代の歌人140より

飼ふもの、がいいね。今だとイマジナリー〇〇かな。ほそほそという
オノマトペも好き。声立ててとあまり結びつかない感じがするのが
むしろ泣かせておこうの心情を強くするような、寄り添うような、
自分の心との折り合いのつけ方だねえ。折り合いというか整え方かな。



2024/09/11

子守唄うたい終わりて立ちしとき一生(ひとよ)は半ば過ぎしと思いき/花山多佳子

 子守唄うたい終わりて立ちしとき一生(ひとよ)は半ば過ぎしと思いき/花山多佳子

現代短歌の鑑賞101より

子育て中って、必死すぎて今が全てで先の事まで考える余裕が
なかった気がする。子育てが終った自分が想像できなくて
このまま自分の一生が終ってしまうような感覚。 うん。そうだ。
想像できなかった。大丈夫だよ。大丈夫はちょっと違うか。
過ぎた先も悪くない。

2024/09/10

コンビニに入って出たら傾いている太陽だおい待ってくれ/工藤吉生

 コンビニに入って出たら傾いている太陽だおい待ってくれ/工藤吉生


歌集『沼の夢』より

まさにこの前こんな気持ちになったところ。日が短くなるのって、
あっという間だよね。大袈裟かもしれないけど、
一瞬目を離しただけで沈んでる感じ。どうして突然気付くんだろうね。
この取り残されたような結句が好きだなぁ。寄り道してる間に
置いて行かれた、みたいな。ちょうど今の季節と重なって、
淋しい気持ちになるね。

2024/09/09

来るだろう、と見あげた先へ 一筋の雨が線画のように降りそむ/中井スピカ

 来るだろう、と見あげた先へ 一筋の雨が線画のように降りそむ/中井スピカ


短歌研究2024年8月号より

現実が、不確かなものになるような。美しい物語のよう
な。
実感がないというか。一筋の雨が祝福のようにも警告のようにも見える。
自分が、受け止めるべきもの、なのかな。僅かに含まれる
来ないかもしれない。見あげた先は、自分自身が見下ろしている。

2024/09/08

挑発をせねば主張とみなされず でもわたくしは伏せた酢漿草/永田紅

 挑発をせねば主張とみなされず でもわたくしは伏せた酢漿草/永田紅


短歌研究2024年5+6月号より

カタバミ、読めなかった。読めないこと自体がこの歌の
言わんとすることに当てはまるのかも。いつだってそこにある。
気付かれるまでそこにいること。気付かれて雑草と見るか
薬草と見るか。主張しないからと言って、
意見がないわけではないのだ。挑発なんて要らないのに。

2024/09/07

子の漢字ノートに幾度も書かれたり生きる生きる生きるの文字が/佐藤モニカ

 子の漢字ノートに幾度も書かれたり生きる生きる生きるの文字が/佐藤モニカ

短歌研究2024年9月号より

子にとってはただの漢字の練習だとしても。
そこに目が止まった親の心情。連作の二首目で、読み進むうちに、
この歌の「生きる」が形を変えて、自分の事のように重くなり、
大切な人のように祈るような気持ちになっていった。凄いな。
一首の柱が広がっていく。


2024/09/06

人の死はいつも人の死 いつの日ぞ人の死としてわが悲しまる/永田和宏

 人の死はいつも人の死 いつの日ぞ人の死としてわが悲しまる/永田和宏

現代の歌人140より

こうやって、年を取っていくんだな。身近な人の死が近くなる。
まだ死ねような年じゃないのに、いつ死んでもおかしくない年でもある。
繰り返される人の死に、自分も組み込まれている。今はまだ、
近くて遠いところにあるような気でいる。まだ先でありますように。


2024/09/05

音立てて歪むといふこと心にはありて散りゆく桜を仰ぐ/栗木京子

 音立てて歪むといふこと心にはありて散りゆく桜を仰ぐ/栗木京子


短歌研究2024年9月号より

壊れる、じゃなくて歪む、なんだな。そして、気が付け
ば、
じゃなくて、明確に、音を立てて歪むということ。
 いっそ壊れたほうが楽なんじゃないかと思う下の句何かに自分の心を重ねるという行為。そうやって平穏を装う。
いや、音立てて歪むのは、今、この瞬間?

2024/09/04

人生の行路はいつでも仮免許 返納すべき何物もなき/柴田典昭

 人生の行路はいつでも仮免許 返納すべき何物もなき/柴田典昭


短歌研究2024年5+6月号より

こういう心持ちで居られたらいいね。何も知らないわけじゃない。
でも間違いに気付いてないかもしれない。何か言葉が出てこないな。
誰かが手を差し伸べる。失敗しても大丈夫。私も、あなたも。
ああどうしよう、本当に言葉が出てこない。
心にしまっておきたい歌。ありがとう。

2024/09/03

水の婚 草婚 木婚 風の婚 婚とは女を昏(くら)くするもの/道浦母都子

 水の婚 草婚 木婚 風の婚 婚とは女を昏(くら)くするもの/道浦母都子

現代短歌の鑑賞101より

女とつく漢字は蔑むものばかりだ、とよく聞くけどこれは…。
意識もせずに使ってる漢字の数々。数にも入ってるね。
木婚以外は呼び名として存在しない。何か意図があるんだろうか。
考えれば考える程「昏く」なるな。自然の営みですら、
女であることから逃げられないような息苦しさ。


2024/09/02

カーテンを開ければ朝の空が見え私はここに今来たばかり/香川ヒサ

 カーテンを開ければ朝の空が見え私はここに今来たばかり/香川ヒサ

現代の歌人140より

旅先の風景かなと思うけど、日々の情景、心のあり方なのかもとも思う。
同じ日はなく、まっさらな朝の空。下の句が、旅先であっても
日常であっても新鮮な驚きがある。どこへでも行ける私。
ここに滞在することも、出ていくこともできる。
カーテンを開けるのは自分なのだ。


2024/09/01

こずゑまで電飾されて街路樹あり人のいとなみは木を眠らせぬ/小池光

 こずゑまで電飾されて街路樹あり人のいとなみは木を眠らせぬ/小池光

現代短歌の鑑賞101より

こんなふうに考えたことなかったな。
街路樹そのものが作られた自然で、木は眠ることも許されないのかと。
寺山修司の歌が頭をよぎって、人間の身勝手さとか、
あたりまえに思ってしまう樹木について考える。
人のエゴだよね。でも人のいとなみとともにある。