2023/08/31

ブナの葉間(あひ)に騒ぐ光の限りなし宥め難かる心のごとく/最首洋子

 ブナの葉間(あひ)に騒ぐ光の限りなし宥め難かる心のごとく/最首洋子


短歌研究2023年5+6月号より

上の句の美しさと下の句が結びつかなくて、それが気になって書写した。
眩しい光はときどき痛い。どうすることもできないということかな。
一時的に治まってもまた騒ぎだす。難しいな。心を騒がせるもの。
光の明るさは必ずしも美しいものではないということ?

2023/08/30

集団登校なかったあの頃おおかたは行きも帰りもとぼとぼ一人/三枝浩樹

 集団登校なかったあの頃おおかたは行きも帰りもとぼとぼ一人/三枝浩樹

短歌研究2023年5+6月号より

ちょっぴり切ない幼い頃の記憶。エッセイも一緒に読むと、
消しゴムと物語が繋がって、その人生を辿るようで文学、
文章の力強さを思う。とぼとぼ一人。
良い思い出ではなかったかもしれない。でもそこに今の自分がいる。
過去から今へ。自分の原点、なのかな。


2023/08/29

ヒーターが点りて消えて三月の丘も世界もまだ定まらず/三枝昂之

 ヒーターが点りて消えて三月の丘も世界もまだ定まらず/三枝昂之


短歌研究2023年5+6月号より

どうやって書き出せばいいかな。三月がいいよね。
冬ではないけれど、春とも言いきれない、まさにまだ定まらず。
世界、で急に視野が広がる。世界が定まる日ってあるんだろうか。
暑さ寒さを繰り返し、裸の枝がまた芽吹いて。
ヒーターの無機質さ。自然の移ろい。

2023/08/28

詩はきつと母語の深みゆ生るるもの国境線は動くとしても/紺野万里

 詩はきつと母語の深みゆ生るるもの国境線は動くとしても/紺野万里


短歌研究2023年5+6月号より

今ちょうどタゴール詩集を読んでいて、似たようなことを
考えていたので感慨深い。タゴールはベンガル語の詩を自ら英訳。
母語のニュアンスは翻訳だと少し変わるんじゃないかなと
思ったりする。でもきっと翻訳で伝わる母語の良さ、
気付きもあるよね。



2023/08/27

あかときの戸の面は白く硝子戸の結露に透けて雪降りしきる/小見山泉

 あかときの戸の面は白く硝子戸の結露に透けて雪降りしきる/小見山泉


短歌研究2023年5+6月号より

ここ最近の異常な暑さで、この歌からは寒さよりも涼を感じてしまう。
これは連作の一首目で、本当に冬の日の朝のピリッとした空気、
白い景色が見えてきて素敵だ。 雪降りしきる、という結句もいいよねえ。
雪って静かで音がない。夜明けの光も白くて、色のない世界がいいな。

2023/08/26

「違かった」五歳が言ふを直しやり歌の「悲しいだった」よしとす/今野寿美

 「違かった」五歳が言ふを直しやり歌の「悲しいだった」よしとす/今野寿美

短歌研究2023年5+6月号より

日本語としての正しさと、表現としての日本語、かな。
基本て大事だよね。言葉は変化すると言うし、いつか違かったも
気にならなくなるのかも。とは言え、子供には正しく教えたいと
思っちゃう。書きながら、正しさって何かなって悩んじゃった。
話し言葉と書き言葉?



2023/08/25

覆ひゆくスペイン風邪に妻死にて三日ののちに夫も死にたり/小林幸子

 覆ひゆくスペイン風邪に妻死にて三日ののちに夫も死にたり/小林幸子


短歌研究2023年5+6月号より

エゴン・シーレの連作。ちょっと思い出せなくて調べた。
夭折の画家、人物画が印象的な人だ。軽くその生涯を読んでから
この連作に戻ると輪郭がくっきり浮かび上がってくる。
展覧会の空気が伝わってくる。自分とは違う視点、
見落としていたこと。繋がる過去と現代。




2023/08/24

くじ引きのようではあるが一等の何かわからぬままに異動す/後藤由紀恵

 くじ引きのようではあるが一等の何かわからぬままに異動す/後藤由紀恵


短歌研究2023年5+6月号より

転勤の経験はないけど、こんな感じなのかな。
昔は転勤しないと出世しないなんて言われてたけど、今はどうだろう。
くじ引きというたとえがいいね。ずっと持ってはいるけど
忘れるような。確かに一等って何だろうね。
はずれではないと思いつつ、どこかよぎる心細さ。



2023/08/23

身体なら傷つけていいと思ってた 野球見ながらにヨギボーの上/小島なお

 身体なら傷つけていいと思ってた 野球見ながらにヨギボーの上/小島なお

短歌研究2023年5+6月号より

身体なら、という言い方。身体の傷は治るけど心の傷は消えない、
みたいなことを思い出す。ヨギボーの柔らかさてそこに乗る身体。
あまり興味のなさそうな野球。過去形で考える傷のこと。
人一倍傷ついて、隠すように傷つけていたんだろうか。
自分だけが静かだ。



2023/08/22

日の陰る温泉路地を白猫(はくべう)はあゆみて去れりおもむきふかく/小池光

 日の陰る温泉路地を白猫(はくべう)はあゆみて去れりおもむきふかく/小池光


短歌研究2023年5+6月号より

凄い、凄い!語彙力死んじゃう。
結句を読むまでもなく趣深い情景が浮かびあがってくる。
温泉路地と猫って相性がいいよね。白猫がまた良い。
古い建物と石畳の道。 色が少ないので、白猫が映える。
本当に書いてあることしか出てこないな。白猫かわいい。

2023/08/21

音という音がじぶんの泣き声に聞こえて湯船のなかに隠れる/小坂井大輔

 音という音がじぶんの泣き声に聞こえて湯船のなかに隠れる/小坂井大輔


短歌研究2023年5+6月号より

そんな日もあるよね。責められてるような、消え入ってしまうような。
自分の弱さに負けてしまう。湯船のなかというのが何だか孤独だ。
隠れるということは見つかりたくないのかな。でも逃げるとは違う。
過ぎ去るのを待てる。音が自分に、世界に?帰ってくる。

2023/08/20

ウクライナのいくさを視つつ過ぎし日の東京憶ひぬ焼け野の東京/高蘭子

 ウクライナのいくさを視つつ過ぎし日の東京憶ひぬ焼け野の東京/高蘭子

短歌研究2023年5+6月号より

言葉の重ささが違う。きって見えてるものも違うと思う。
私は分かってるようで分かってない。どこか遠い。
だから、この歌の近さが怖くて痛い。出てくる言葉が薄っぺらい。
どの歌も柔らかいのに重いんだ。忘れるけど忘れない年月を思うよ。




2023/08/19

投げかけし言葉に君が笑ふまで水深はかるやうに待ちたり/桑原亮子

 投げかけし言葉に君が笑ふまで水深はかるやうに待ちたり/桑原亮子

短歌研究2023年5+6月号より

こういう音のしない短歌好きだな。
無音…ではなくて、 音と同化していく感じ?
沈む、とも違うなあ。静か、だよね。いいなぁ。好きだなぁ。
静かに錘を下ろして引き、 上げる。どこまでも深いのかもしれない。
その言葉の意味と重さ。二人に流れる空気がいいなあ。


2023/08/18

今日(きょう)はよく喋(しゃべ)るね、何(なに)か良(い)いことでもあったの 鎖鎌(くさりがま)の気持(きも)ちで/郡司和斗

 今日(きょう)はよく喋(しゃべ)るね、何(なに)か良(い)いことでもあったの 鎖鎌(くさりがま)の気持(きも)ちで/郡司和斗


短歌研究2023年5+6月号より

鎖鎌が不穏。聞き手と話し手の温度差、みたいな。
鎖鎌の気持ちなのはどっちなんだろうね。私はネガティブなので、
こういうふうに言われたら嫌味かなと思っちゃうけど、
そうじゃないかもしれない。お互い逃げられないような
居心地の悪さ?間合を取ってる、みたいな。

2023/08/17

「おばあちゃん、おくすり手帳もってる?」と訊かれた婦人のムッとした顔/桑原正紀

 「おばあちゃん、おくすり手帳もってる?」と訊かれた婦人のムッとした顔/桑原正紀

短歌研究2023年5+6月号より

これなぁ…。親近感と馴れ馴れしさは違うよね。
やたらボディタッチが多かったりさ。正しい敬語を使えとまでは
思わないけど、かなりモヤッとする。薬局ならちゃんと名前
呼んでほしいな。何か短歌の感想じゃなくて、
ただの愚痴になっちゃった。共感の歌だね。


2023/08/16

ウイスキーボンボン児より賜りぬ「誰もくれへんやろ」と宣(のたま)ふ/黒瀬珂潤

 ウイスキーボンボン児より賜りぬ「誰もくれへんやろ」と宣(のたま)ふ/黒瀬珂潤

短歌研究2023年5+6月号より

バレンタインデーかな。児という幼い感じからの賜りぬ。
ちょっと生意気でかわいらしい台詞。宣うって尊敬語でもあるんだね。
賜るや宣うって普段そんなに使う言葉ではなくて、
でもこの一首の中で言葉の距離みたいなものが感じられて
面白いなって思った。




2023/08/15

零余子摘み木通をちぎり野の道をふたり行きゆく まぼろしならず/桑田靖之

 零余子摘み木通をちぎり野の道をふたり行きゆく まぼろしならず/桑田靖之

短歌研究2023年5+6月号より

何だろう・・・自分の教養食を試されてる気がする…。
深読みしすぎなだけかもしれないけど。伝承とかが下地にあるのかなと。
一字空けての結句で、夢のような景色に思えてるんだよね。
自分達のようにも見えるし、誰かを見守ってるようにも見える。
あどけなさとあたたかさ。



2023/08/14

紅梅がにほふ斜面(なだり)を娘らと競(きほ)いのぼりし すでに茫茫/黒木三千代

 紅梅がにほふ斜面(なだり)を娘らと競(きほ)いのぼりし すでに茫茫/黒木三千代


短歌研究2023年5+6月号より

これはもう、思い出の中の風景なのかな。
紅梅の匂いが幻みたいだ。茫茫っていくつか意味があるんだね。
読めば読むほど、風景が近くて遠い。どう言えばいいのかな。
美しい過去と、今ここに広がる現実と。紅梅の香りが運んでくるもの。
光と影?何か違う…。淋しいな。



2023/08/13

中華料理と中国料理は異なるか和食と日本料理は如何/黒岩剛仁

 中華料理と中国料理は異なるか和食と日本料理は如何/黒岩剛仁

短歌研究2023年5+6月号より

調べてみると、前者には違いがあり、後者は同義であるようだ。
こういう普段何気なく使って意識もしない差異が
妙に気になることがある。厳密には違うけれど、分けない言葉、
同じ意味だけど、ニュアンスで違う雰囲気になる言葉。
その差異に溺れそうになるよね。



2023/08/12

傷口を接着剤でくつつけるやうなきのふとあすのさかひめ/栗原寬

 傷口を接着剤でくつつけるやうなきのふとあすのさかひめ/栗原寬

短歌研究2023年5+6月号より

下の句、凄い。
ぼやっと考えて、今日?と思ったけど、 そんなに広くない。
どこが、なにが境い目と言えるんだろう。傷口って何だろう。
小さく傷つきながら、自分でくっつけながら今日が過ぎてゆく。
それがさかいめなのかな。うーん、何か違う…。
分からないけど心に刺さる。

2023/08/11

オムライスランチのおまけのブリュレ消え卵の価格高騰つづく/栗木京子

 オムライスランチのおまけのブリュレ消え卵の価格高騰つづく/栗木京子

短歌研究2023年5+6月号より

最近は個数制限がしっかりしてるのか、
夕方に行っても買えるようになった。
それでも高騰が続いてるし、外食産業は大変だよね。
こういうところからじわじわ気付いていくのが
真綿で首を締められてるみたいで嫌だな。自分の視野の狭さがね。
もっと早く気付ければよかった。




2023/08/10

今になほ深き空洞を埋めくくる雪夜のありて未だ生きたし/久保庭紀恵子

 今になほ深き空洞を埋めくくる雪夜のありて未だ生きたし/久保庭紀恵子

短歌研究2023年5+6月号より

自分の感性のなさ、言葉の持たなさにがっかりするな。
こうやって、自分の思いを言葉にすることの大切さや難しさに気付く。
それでも空洞はずっと空洞のままなのかな。
埋めくくる、からの未だ生きたし。雪夜の冷たさ。
何も言葉が出てこないよ。淋しい。

2023/08/09

たこ焼きに大きな海老を入れて焼くうれしい日には大きな海老だ/工藤玲音

 たこ焼きに大きな海老を入れて焼くうれしい日には大きな海老だ/工藤玲音

短歌研究2023年5+6月号より

たこ焼きをあまり食べないので、
家族で焼く、海老を入れる、というのが新鮮だ。
そうか、うれしい日なのかとこちらもうれしくなる。
何でもない日でもたこ焼きを焼くんだなぁとか、
海老の大きさで日常を垣間見れて、
ちょっと幸せな気持ちになる。にぎやかな食卓。

2023/08/08

屋上に植えられている植物の地上から見るはみ出し部分/工藤吉生

 屋上に植えられている植物の地上から見るはみ出し部分/工藤吉生

短歌研究2023年5+6月号より

屋上庭園みたいな立派な感じじゃなくて、あまり大きくはない植木鉢が浮かんだ。
見上げる人、はもちろんだけど、植物に見られているような気がしてくるのも何かいいな。
植物から見たら、自分もどこかはみ出してるかもしれない。
屋上にあるという小さな違和感。

2023/08/07

ガラス張りのビルに廃ビルがうつり込む死ぬことをいつ知つたのだらう/楠誓英

 ガラス張りのビルに廃ビルがうつり込む死ぬことをいつ知つたのだらう/楠誓英

短歌研究2023年5+6月号より

うつり込む、が怖い。廃ビルと死ぬことの距離。
ルドルフ・ヘスについて少し調べたら、
ガラスに人の顔が貼り付くようでますます怖い。
下の句の意味。人は死ぬために生きるとも言える。
いつか死ぬのだ。あたりまえに気付くこと。
廃ビルが亡霊みたいだ。


2023/08/06

国生みの島を培ひ生を継ぐ親族(うから)われにあり 永沢の里/楠田立身

 国生みの島を培ひ生を継ぐ親族(うから)われにあり 永沢の里/楠田立身

短歌研究2023年5+6月号より

大変申し訳ないのだけれど、私に学や教養がなくて、
いまいち読み取れなかった。自分史、回想なのかな。
分かりそうで分からない。でも生を継ぐ、ということの重さ、
 糸のようなものは何となく感じる。紙一重、何か違う…
この気持ちを表す言葉があった気がする。

2023/08/05

オペラグラスの丸い視界が小刻みに揺れればたぶん泣いている私/鯨井可菜子

 オペラグラスの丸い視界が小刻みに揺れればたぶん泣いている私/鯨井可菜子

短歌研究2023年5+6月号より

お芝居の世界から現実へと帰る。
連作の中での切り替えに一瞬しんとなる。
どこか冷めた目で見ている自分とそうじゃない自分。
オペラグラス越しのお芝居、たぶんという推量。どう書けばいいのかな。
私ならきっと、もう一度このお芝居を見たいと思う。今
度はまっさらな心で。

2023/08/04

時という逃げ足はやきもの追いて野山に百花開きはじむる/久々湊盈子

 時という逃げ足はやきもの追いて野山に百花開きはじむる/久々湊盈子

短歌研究2023年5+6月号より

ものすごーくザワザワする。自分だけ枯野から抜け出せない。
追ってたはずなのに、気付けば追われてる。追い付かない感じが嫌だなぁ。
咲き始める花々も自分を追い立ててるみたいだ。思わず立ちつくしちゃう。
どんどん遠のいて、ここはどこだろう。また逃げられる。

2023/08/03

百年の梅も満開めじろ寄り一人の庭も賑やかなり/草野百合子

 百年の梅も満開めじろ寄り一人の庭も賑やかなり/草野百合子

短歌研究2023年5+6月号より

老いてゆく自分、見送り、その先で待つ家族。
巡る季節の、春の息吹の美しさ。
思いを馳せるなんて簡単に言えない。
遠くない未来を待つってどんな気持ちだろう。
こんなに美しいのに淋しい。
私もこの眩しい景色が見えるだろうか。
また道標になる短歌が増えたよ。ありがとう。

2023/08/02

痛みどめ飲みて奥歯をなだめゐる花粉のおほく飛ぶ日の午後を/久我田鶴子

 痛みどめ飲みて奥歯をなだめゐる花粉のおほく飛ぶ日の午後を/久我田鶴子

短歌研究2023年5+6月号より

この前の歌が歯医者さんの風景で、その流れなんだけど、
 何だか深読みしたくなる不思議な歌。慣用句っぽいなと。
 どこかに比喩が隠れてるんじゃないかと何度も読んじゃう。
そのままの意味だとしても、その背景にある物語を色々想像して、
言葉の力や意味の面白さを思うよ。

2023/08/01

ガチャガチャとうるさい会話よく聴けばわが身と重なる女(をみな)らの愚痴/木村雅子

 ガチャガチャとうるさい会話よく聴けばわが身と重なる女(をみな)らの愚痴/木村雅子

短歌研究2023年5+6月号より

私はこういう聞くともなしに聞く会話が大好きだけど、
 ただただうるさいと感じる人もいるよね。
BGMの一種?声であって、中身は聞いてない。
それをよく聴けば、というシーンにも共感。
うるさいと思ってたのに、身につまされていくのが面白いな。
つい引き込まれる。