2021/12/23

生みたがらぬ若者ら群れ死にたがらぬ老い人の殖ゆ虚空みつ大和/山埜井喜美枝

生みたがらぬ若者ら群れ死にたがらぬ老い人の殖ゆ虚空みつ大和

どこからが余生残生抜けやらぬ風邪に着重ねて花の下ゆく

西行の死に時ならむ月もよし染井吉野の花八分咲き/山埜井喜美枝

歌集『はらりさん』 より

連作「月もよし」より。
旧仮名は苦手だけど、ゆっくり読み進めたい。
表現が豊かだ。美しい日本語。

2021/12/22

妹のいまは主なき歯ブラシは小さき口を恋しがるなり/蒔田さくら子

 妹のいまは主なき歯ブラシは小さき口を恋しがるなり

鰻でもとりませうかと声をかけ届きしを食ぶ夫の命日/蒔田さくら子

現代短歌新聞より

一首目は、初めて作った短歌で、12歳で早世した妹の挽歌、
二首目は、最後の作品となった「短歌人六月号」より。
令和三年八月八日逝去。九十二歳。
紹介されてる歌がどれも素敵だ。


2021/12/17

緊急事態宣言解除 十月の街にきてしたいことがわからず/小島ゆかり

 緊急事態宣言解除 十月の街にきてしたいことがわからず/小島ゆかり

歌壇2022年1月号より

分かるわぁ。あそこ行って、あれしてこれして、って
色々考えてたのに、いざ行ったらすっぽり忘れて、
最低限の用事で帰ってきてしまった。ぽつーんと街中に立って、
自分だけ置いて行かれるような。知らぬ内に
生活意識が変わっていたんだと実感した。


2021/12/14

赤がすき ライブ帰りに来た道を雑にたどって待つ信号の/岡野大嗣

 赤がすき ライブ帰りに来た道を雑にたどって待つ信号の/岡野大嗣

歌集『音楽』より

ライブの高揚感も余韻も伝わってくる。初めての会場だと、
来た道と違うところ歩いちゃったり。私が方向音痴なだけかな。
信号の明かりがライブの照明と重なって見えたりするんだろうな。


2021/12/13

秋の夜のネオンテトラの水槽に酸素を送る音のみの部屋/谷岡亜紀

 秋の夜のネオンテトラの水槽に酸素を送る音のみの部屋/谷岡亜紀

短歌研究2021年11月号より

瞬時に画が浮かんだ。しんとした秋の夜に、いつも以上に響く
水中ポンプの音。キラキラと光るネオンテトラ。
静かに過ぎてゆく時間。水槽の音って、ノイズになる時も、
BGMになる時もあるけど、これはどっちだろう秋の月も見えてくるようで何かいいな。

2021/12/09

自衛隊大規模接種実施中予約者以外立入禁止/庭野治男

 自衛隊大規模接種実施中予約者以外立入禁止/庭野治男

短歌研究2021年12月号より

掲載されている四首が全て漢字でびっくりした。
だからと言って読みにくいとか、意味が無理矢理という事もない。
凄い。スッと読めちゃう。そして漢字だからこそ、
一字一字しっかりその意味を考えながら読んでた。
余計なものがない分、想像も膨らむ。


2021/12/08

竹林のフルートの音色に目覚めたり良きことあれよ弥生の朝/大畑悳子

 竹林のフルートの音色に目覚めたり良きことあれよ弥生の朝/大畑悳子

短歌研究2021年12月号より

竹林を見た事がないので、何だかとても気になった。
他の木々とは違う音がするんだろうか。そういえば竹は
冬も枯れないの?弥生の頃は若葉が出るんだろうか。
竹林のイメージは日の光が緑に反射して瑞々しい。
祈りたくなるような爽やかな朝を想像した。


2021/12/06

閉店のやさしい音楽が流れて、旅を勧めてくる雑誌を閉じる/郡司和斗

 閉店のやさしい音楽が流れて、旅を勧めてくる雑誌を閉じる/郡司和斗

現代短歌2021年9月号

何となく、大型書店というよりは、テナントで入っている
本屋さんを想像した。誰かを待っているのか、一人なのか
分からないけど、時間を潰すためにめくった雑誌。
どこかの土地の特集は、そこに行きたくなるよね。
閉店の音楽で現実に戻る感じがいいな。


2021/12/03

昨晩の君の無言の味がする今朝のキウイもパンもミルクも/小野田光

 昨晩の君の無言の味がする今朝のキウイもパンもミルクも/小野田光

短歌研究2021年6月号より

ケンカしたのかな。気まずさを朝にひきずってる。
読んでるこっちがヒヤヒヤしちゃう。さわやかな朝食の風景なのに、
無言の味がとんでもないスパイスになってる。
きっと君の事が気になって、味がしないんだろうな。
しんとした空気が伝わってきて好き。


2021/11/30

花びらのやうに降る雪ながめをりストーブの辺に猫と並びて/時田則雄

 花びらのやうに降る雪ながめをりストーブの辺に猫と並びて/時田則雄

短歌研究2021年5月号より

冬も雪も嫌いだが、この上の句のように過ごすのは好きだし、
晴れた日の雪原を眺めるのも好きだ。この歌は春を待つ歌で、
そう言われると、花びらのような雪、は近付く春を感じさせる。
真冬は粉だからね…。冬と猫は相性がいいね。丸まってる猫が見える。


2021/11/28

はじめての駅でふたりは水を買ふ秋のみづだとおもつて買つた/魚村晋太郎

 はじめての駅でふたりは水を買ふ秋のみづだとおもつて買つた/魚村晋太郎

短歌研究2021年11月号より

読んだ時、二人の周りはキラキラと輝いて、紅葉が舞い散る画が
浮かんだ。何でもない事かもしれないけど、一言一言がとても綺麗だ。
秋の水ってどんなだろう。はじめての駅はどんな風に写ったんだろう。
幸せそうで、ほわほわした気持ちになる。


2021/11/25

フェイクだと思うよまさかつぶあん派こしあん派よりも多いだなんて/山田航

 フェイクだと思うよまさかつぶあん派こしあん派よりも多いだなんて/山田航

短歌研究2021年6月号より

私はつぶあん派だけど、苦手な人多いよね。
でもこしあんはあんこじゃないと言う人も割と多いし、
やっぱりっぶあん派が多いの?それはそうと、
思ってたのと違う結果を疑うのは大事だなと思う反面、
行きすぎるとまた間違っちゃうし、難しいなと思った。


2021/11/22

許すとは誰に許さるの善き人の張る天蓋が陽を閉ざしゆく/高木佳子

 許すとは誰に許さるの善き人の張る天蓋が陽を閉ざしゆく/高木佳子

短歌研究2021年11月号より

謝ればそれで終わり、許さないと言えば、逆に責められたり。
善い人程、謝罪を受け入れて、本当にそれでいいの?と
不安になる。許すって簡単ではない。そんな簡単に
許して/許されていいのだろうか。こうやって、
薄く心を閉ざしてゆくのか。どちらの立場でも心が痛い。


2021/11/19

「サウイフモノニ」私はなりたくない 故に賢治も夏の暑さもきらひ/山埜井喜美枝

 「サウイフモノニ」私はなりたくない 故に賢治も夏の暑さもきらひ/山埜井喜美枝

現代短歌文庫より

あの詩に反発を覚えて宮沢賢治を嫌いだというのは分かるが、
夏の暑さは完全にとばっちりではなかろうか。
思わず雨ニモ負ケズを読んでしまった。暑苦しい感じがするのかな。
おそらく元々暑さも苦手だったんだろうけど、
関連付けて思い出す何かがあるのかも。


2021/11/18

愉しみをそつと差し出す神の手を握らむとして見失ふなり/古谷智子

 愉しみをそつと差し出す神の手を握らむとして見失ふなり/古谷智子

短歌研究2021年11月号より

去年からずっと、こんな事が続いていると感じる。
そっと差し出す神の手。後光が差すような救いの手じゃなくて。
密かに楽しみにしていた事も気付けば中止になっていく。
自分の中でそれ程重要ではないと思っていた事が
実は大切な事だった。そんな気付きの歌と感じた。


2021/11/06

卵粥、韮粥、茶粥、かゆ腹にこたふる秋の風邪のしはぶき/山埜井喜美枝

 卵粥、韮粥、茶粥、かゆ腹にこたふる秋の風邪のしはぶき/山埜井喜美枝

現代短歌文庫より

「しはぶき」が分からなくて調べた。咳のこと。
何となく秋の風邪って乾燥と相まってしんどいイメージだ。
乾燥の咳も混じる感じ。この歌は風邪が長引いて辛い様子が
伝わってくる。かゆ腹という表現を初めて知る。
韮って消化悪くないのかな。中華粥なのかな。


2021/10/31

チャリが来た 避けようとして傾いたオレと真夏の草のふれあい/工藤吉生

 チャリが来た 避けようとして傾いたオレと真夏の草のふれあい/工藤吉生

短歌研究2021年11月号より

多分、狭い道で、ふれた草も雑草なんだろうけど、
ありふれた風景が急に色付いていくような、はっとする
美しさのある歌だなと思った。自転車が通り過ぎて受ける風とか、
うっとうしいような濃い緑が真夏の一言で鮮やかになる。


2021/10/21

思い出に降ってくる雨晴らそうとまずは蛇口を締めてまわった/笹井宏之

 思い出に降ってくる雨晴らそうとまずは蛇口を締めてまわった/笹井宏之

歌集『ひとさらい』より

心情を思うよね。きっと思い出したら泣けてくるようなことで、
雨は降らないでほしい。降ってはいない。降ってこないように
蛇口を閉じたら、思い出は今まで通りでいられるのかな。
「まわった」ということは一つじゃない。忘れたくないけど
思い出すと辛い。亡くなった人との思い出と感じた。


2021/10/20

こころから吹き込む雪の夜だからペチカ燃えろよ記憶を焼べて/山階基

 こころから吹き込む雪の夜だからペチカ燃えろよ記憶を焼べて/山階基

短歌研究2021年10月号より

こころから吹き込む雪は相当冷たいだろうなと思う。
そこに焼べる自分の記憶。ペチカの炎とレンガの暖かさ、
吹き込む寒さ。燃えた記憶は熱となって自分を温めるのかな。
じわりじわりと温まるような。静かな夜で、
パチパチと焼べる音が聞こえてきそう。


2021/10/17

縦笛は横笛よりもなめらかに怒りの河を流れてゆける/大森静佳

 縦笛は横笛よりもなめらかに怒りの河を流れてゆける/大森静佳

短歌研究2021年2月号より

縦笛は学校で習うあれ、横笛はフルートが思い浮かんだので、
何となく繊細なイメージのフルートより縦笛の方が
怒りに合ってるなと納得した。怒りの河って何だろう。
自分自身への怒りか、世の中や他者への怒りか。
他者へのじゃなくて、他者かな。なめらかが怒りを中和してる。


2021/10/16

ファスナーは布を噛みたり寒き夜に枕カバーを取り替へゆけば/栗木京子

 ファスナーは布を噛みたり寒き夜に枕カバーを取り替へゆけば/栗木京子

短歌研究2021年2月号より

この歌を読んで、短歌ってミュージカルみたいだなと思った。
今までも何気ない日常の歌を書写してるけど、この歌は
生活そのものというか、でも何かはっとするような。
布がかんだ事で手が冷えてかじかんでいたのに気付いたのかな、とか。
言葉にするのが難しい…。


2021/10/15

雨後の街は金魚のにおいばかりする こころの外へ僕を出さねば/笹川諒

 雨後の街は金魚のにおいばかりする こころの外へ僕を出さねば/笹川諒

短歌研究2021年7月号より

分かりそうで分からない不思議な歌。雨上がりの街。
金魚鉢のように窮屈なんだろうか。雨後の街は自分の心か。
しめったまま、悪いことばかりを考えてしまう。
洗い流してくれる筈の雨は泥水となって溜まってしまったんだろうか。
もがくような悩みを感じる。


2021/10/08

初物の桃をふたりで食べたこと甘く苦しくこの喉にある/千種創一

 初物の桃をふたりで食べたこと甘く苦しくこの喉にある/千種創一

短歌研究2021年9月号より

桃なのがいいよね。瑞々しく甘い思い出と同時に、
過ぎてしまった後悔も喉に残ってる。甘さが先に来て、
喉に引っかかるような痛み。酸いも甘いもと言うけれど、
そんな歳月を過ごして来たのかな。切ない思い出。
千種さんの歌は言葉が綺麗。情景が目に浮かぶ。


2021/10/02

泣かずとも私は私に沿うだろう花瓶にたっぷり水をそそいで/塚田千束

 泣かずとも私は私に沿うだろう花瓶にたっぷり水をそそいで/塚田千束

短歌研究2021年10月号より

しっかりとした芯を感じる歌だ。自分をなぐさめる術を知っている。
自問自答しながら、花瓶の水を満たしていく。寄り沿って寄り沿って。
何かうまく言えないな。泣くべきだったのかもしれない。
でも泣かない、泣けない自分を知っている。
たっぷりの水はいつかこぼれるのかもしれない。


2021/09/30

黄桃の缶を開ければ両膝を抱へて沈む女が見える/高木佳子

 黄桃の缶を開ければ両膝を抱へて沈む女が見える/高木佳子

短歌研究2021年10月号より

一瞬で景が浮かび、そして苦しくなった。つるりとした黄桃は
なるほど頭をもたげ、背中を丸めた女に見える。 でもどうして
そんなふうに見えたのか、覗き込み、見おろすそれは
自分自身ではなかったか。沈む女。もう動かない。
引き上げられるのをじっと待つようで。苦しい。


2021/09/29

ブラックダリア黒蝶5号の花を見て真夏に向かうこころ定まる/佐伯裕子

 ブラックダリア黒蝶5号の花を見て真夏に向かうこころ定まる/佐伯裕子

短歌研究2021年10月号より

店頭に並ぶ鉢花を思い浮かべた。可愛らしい春の花から
キク科の花が増える。ブラックダリアはその中でも大きくて、
花の色も目を引く。春と言うには暑く、夏を思わせる中で
何を決意したんだろう。これから向かう先に花の色が見えて、
強くてかっこいい。

2021/09/24

「熱殺蜂球」このすさまじき殺し方たとへばあいつにと思はぬでもない/永田和宏

 「熱殺蜂球」このすさまじき殺し方たとへばあいつにと思はぬでもない/永田和宏

短歌研究2021年10月号より

誰かの黒い気持ちを見て少し安心する自分がいる。この歌がそう。
自分の命を削ってまでして殺すのに、あいつにと思ってしまう。
誰かに言うわけでもなく、本当に殺したい程憎んでる訳でもないと思う。
ふと思い出す小さな憎悪。それこそ熱で溶けてしまえばいいのに。




2021/09/22

しつけ糸切って解放してやればスカートもひとすじの糸も自由だ/飯田有子

 しつけ糸切って解放してやればスカートもひとすじの糸も自由だ/飯田有子

短歌研究2021年8月号より

スカートの方に目が行きがちだけど、言われてみれば確かに
その通りだ。女とは、自由とは、縛りつけてるものとは何か。
ジェンダーが叫ばれ、価値観が変わって、受け入れること、
ついていけなくなること。自由だけど、自由なのに、
どこにも行けない。自分に置き換えて考えてしまう。


2021/09/21

降ることを忘れた雨が溜まりゆくはるけき場所がこころのすべて/本多真弓

 降ることを忘れた雨が溜まりゆくはるけき場所がこころのすべて/本多真弓

短歌研究2021年7月号より

どうしても、雨は涙かなと思ってしまう。心ははるか遠い所へ
行ってしまって、泣くことさえも忘れてしまうような。
こころのすべてをそんな遠い場所、置かなければいけない状況。
それでも重い雲を見て、あそこに心があると思う。
辛さの中に希望があって、でも切ない。


2021/09/19

眠るため消した電気だ。悲しみを思い返して泣くためじゃない/工藤吉生

眠るため消した電気だ。悲しみを思い返して泣くためじゃない/工藤吉生

歌集『世界で一番すばらしい俺』より

心の支えになってる一首。どうして布団に入ると悲しいことばかり
思い出してしまうのか。早く寝なきゃって思えば思う程。
当たり前のことが、こんなにも心強く感じる。
夜は悲しみも包み込んでくれるはずと思わせてくれる歌。



2021/09/17

さしだせばどうなったかと思いつつ自分のためにさす傘の紺/工藤吉生

 さしだせばどうなったかと思いつつ自分のためにさす傘の紺/工藤吉生

歌集『世界で一番すばらしい俺』より

紺の傘、ではなく、傘の紺。夜の色だと思った。
日常に溢れる「もし」。できないと分かっていても。それでも。
迷いとか後悔とかが見え隠れしつつ、自分のためにさす。
紺色って不思議な色だと思う。夜の色で、でも真っ暗じゃない。
包み込む色。いいなぁ。好きだなぁ。


2021/09/16

目が合ったあなたは去った軽蔑に致死量があることがわかった/工藤吉生

 目が合ったあなたは去った軽蔑に致死量があることがわかった/工藤吉生

歌集『世界で一番すばらしい俺』より

短編映画を見て。初読の時も何て残酷なんだと胸が詰まったが、
映像になると剛力ちゃんの表情もあって涙目になってしまった。
なかなかしんどいな。軽蔑の致死量なんて知らないままでいたい。
鈍感でありたい。鈍感すぎてもダメだけど。好きな人の視線は痛い。


2021/09/15

街灯のあかりの下に一羽ずつ怒りの鳩を置いてゆく道/小島なお

 街灯のあかりの下に一羽ずつ怒りの鳩を置いてゆく道/小島なお

短歌研究2021年8月号より

意味を理解できないけれど、心に引っ掛かってる一首。
平和の象徴の鳩。無機質な街灯のあかり。怒っているのは鳩?
道に置いてゆくのか、道が置いてゆくのか。オレンジ色の街灯。
夜の静けさ。何だろう。分からないけど怒りだけが
ぽつんと浮かんで印象的。

2021/09/14

紫陽花が自重に耐へて咲くさまを思へりトイレで嘔吐しながら/睦月都

 紫陽花が自重に耐へて咲くさまを思へりトイレで嘔吐しながら/睦月都

短歌研究2021年8月号より

上の句の美しさから下の句への繋がりに驚く。
ひどく苦しいだろうに、そこに浮かぶのは頭をもたげた紫陽花で
雨に当たっている気がした。苦しさが少しでも楽になってくれと、
祈るような気持ちだろうに、花が出てくるのがいいな。で
も自重に耐えて、で苦しさも伝わる。好き。


2021/09/10

いちじくをふたつに割った形状のマンドリンはあなたに抱かれて/工藤吉生

 いちじくをふたつに割った形状のマンドリンはあなたに抱かれて/工藤吉生

歌集『世界で一番すばらしい俺』より

楽器に疎いので調べた。小さくて見た目も音もコロコロしてかわいい。
座って抱えるように弾くので、「抱かれて」という表現が凄く合う。
良く言われる例えらしいけど、好きな人が持っていると、
こんなにもみずみずしくて、艶めいた歌になるんだね。素敵。


2021/08/28

濁点はやっぱりトゲのつもりだろうか  ばら、ぼけ、あざみ、さぼてん、じぶん/林あまり

 濁点はやっぱりトゲのつもりだろうか

 ばら、ぼけ、あざみ、さぼてん、じぶん/林あまり

短歌研究2021年8月号より

着眼点が凄い。それを思い付くだけでも凄いのに、
最後に来るのは自分。もの凄い説得力がある。そうかも、
と自分のトゲを見つめてしまう。時々誰かを刺してるかもしれない。
でもキレイな花も咲くもんね。咲くといいな。


2021/08/26

沈黙へつぎつぎ意味の絡まってそれは蔓だらけのゴリアテになる/千種創一

 沈黙へつぎつぎ意味の絡まってそれは蔓だらけのゴリアテになる/千種創一

短歌研究2021年9月号より

ああ凄いな。元の沈黙の意味は隠れてもう見えない。
後付けされた意味が重なって飛び出して巨大になってく。
無言の圧力みたいな、いや違うな。この歌を内から見るか
外から見るかで見え方が変わる。自分の沈黙なのか、
誰かの沈黙なのか。ゴリアテに例えるのが凄い。


2021/08/23

木の梢揺れて彼女を知っていた 涸れたままでもいいよ噴水/小島なお

 木の梢揺れて彼女を知っていた 涸れたままでもいいよ噴水/小島なお

短歌研究2021年8月号より

「女」を強く感じさせる連作百首。比喩が切ない。
上の旬は、直接の知り合いじゃないのかもしれない。
それでも下の句で語りかける。産むことも産まない、
産めないことも個人を尊重すべき、そんな言葉すら重荷になる。
性差を消すことはできないのに。


2021/08/22

正しさがタイムラインを埋め尽くし責められており主婦なるわれは/富田睦子

 正しさがタイムラインを埋め尽くし責められており主婦なるわれは/富田睦子

短歌研究2021年8月号より

自分も気をつけなきゃいけないけど、
似た考えの人をフォローしがちなので、
自分の考えと違う意見で溢れると不安になるし、
責められてるような気持ちにもなる。 最近は個を大事にと
言いながら、輪から外れると容赦ない感じがあって怖い。
どっぷり浸からないようにしなきゃ。


2021/08/21

健診の結果は要再検査D よくあること、そう、よくあることだ/本条恵

 健診の結果は要再検査D よくあること、そう、よくあることだ/本条恵


短歌研究2021年8月号より

連作の最初の歌。健康であればある程、健診の結果に驚く。
よくあること、と言い聞かせても拭えない不安。
連作は再検査から癌治療へと続く。どこか他人事のように見えて、
でも病人だからこそ見える歌にはっとする。何度も読んで、
良くなるといいなと願う。50首全部読みたい。

2021/08/20

おのづからとけてながるるうすら氷のこころごころの水のありかた/小池純代

 おのづからとけてながるるうすら氷のこころごころの水のありかた/小池純代

短歌研究2021年8月号より

頭が悪くてこの歌の意味を読み解くことはできないけれど、
言葉の一つ一つが美しくて心惹かれた。雪解けの春の川。
薄く張った氷。おのづからとけて、という表現。
それぞれの氷、内にある水。人の心の無意識みたいなもの。
にじみ出て、流れた時にどう振る舞うのか。


2021/08/19

あかときのバファリンルナのルナは月やがて身体も透けるでしょうか/大森静佳

 あかときのバファリンルナのルナは月やがて身体も透けるでしょうか/大森静佳

短歌研究2021年8月号より

辛い生理痛。明け方に薬を飲む。外はぼんやりと明るく、
 月は白く透けている。取れない痛み、だるさ。もういっそ、
無くなってしまえばいいのに、とも思う。
それを「透けるでしょうか」と柔かく表現しているのが好き。


2021/08/02

鍵束を膝に鳴らしてどこへでもゆけるわたくしどこにもゆかず/葛原妙子

 鍵束を膝に鳴らしてどこへでもゆけるわたくしどこにもゆかず/葛原妙子

『をがたま』より

人生の扉はたくさんあって、その鍵も持ってる。
どこにもゆけず、じゃなくて、どこにもゆかず。
自分の意思でここにいるということか、それとも踏み出せない自分への苛立ちか。
どちらにも取れて、どちらにもドラマがあるな。
鍵束を鳴らすという表現がかっこいい。

2021/08/01

3個入りプリンを一人で食べきった強い気持ちが叶えた夢だ/工藤吉生

 3個入りプリンを一人で食べきった強い気持ちが叶えた夢だ/工藤吉生

『世界でいちばんすばらしい俺』より

いい大人なので、こんなささやかな夢はいつでも叶えられるんだけど、
謎のプライドが邪魔をするよね。
決意してから買ってきて食べ終えるまでを想像して楽しい。
やりきった感がいいなぁ。強い気持ちっていうところに少し後ろめたさも見えて好き。

2021/07/22

犬用のシャンプー凄し犬が持つけものの臭ひ忽ち消しぬ/奥村晃作

 犬用のシャンプー凄し犬が持つけものの臭ひ忽ち消しぬ/奥村晃作

『鬱と空』より

**(我が家の飼い犬)もこの前トリミング行って、臭い犬からいいにおいになったよ笑
足の裏はあいかわらず臭いけど。でも家で洗ったら、洗面所がしばらく犬臭いのよね…。
夫は気にならないらしいけど。臭いの強い犬種だと大変だろうな。かわいさで全て許しちゃうけど。

2021/07/20

てのひらを空にむけてる雨だわと雨の重さをはかる感じで/加藤治郎

 てのひらを空にむけてる雨だわと雨の重さをはかる感じで/加藤治郎

『マイ・ロマンサー』より

はー、美しいね。雨の予報じゃなかったんだろうな。
降るか降らないか微妙な天気で。差し出した手の平に落ちる雨粒。
雨の重さなんて考えたことなかったな。うん。 美しいしか出てない。
今年は雨が少ない。庭の花も油断するとしおれちゃうくらい。少し降ってほしいな。

2021/07/14

四季が死期にきこえて音が昔にみえて今日は誰にも愛されたかった/岡野大嗣

 四季が死期にきこえて音が昔にみえて今日は誰にも愛されたかった/岡野大嗣

『今日は誰にも愛されたかった』より

谷川さんぽいなと思ってたら岡野さんだった。
解説?で感情のエラーみたいな事を言っててなるほどと思った。
 気持ちの問題なのか、時々目に入るものがネガティブに見えたりする。エラーと思えば気が楽になるかな。
愛されたかったけど愛されなかった。不思議な文章。好き。



2021/07/05

毎日の雑務の果てに思うのは「もっと勉強すればよかった」/荻原慎一郎

 毎日の雑務の果てに思うのは「もっと勉強すればよかった」/荻原慎一郎

『滑走路』より

本当にね・・・。
十代の頃はどんなに憧れの人に言われてもちっとも心に響かなかった。
あの頃の自分にビンタしたい。
学ぶ事に年齢は関係ないと言うものの、下地になる基礎って大事だと思う。年取れば悩みそ固くなるしさ…。
でも今は今で好きな事を学べて楽しいよ。ゆっくりだけどね。

2021/07/03

「おばあちゃん次は何色?」子は問えり米寿をベージュと聞き間違えて/俵万智

 「おばあちゃん次は何色?」子は問えり米寿をベージュと聞き間違えて/俵万智

『オレがマリオ』より

谷川俊太郎の詩集タイトルも「ベージュ」で米寿と掛けてる。
そう言われると、ベージュがだんだん米寿の色に思えてくる。
子供の勘違いって時にはっとさせられる。
柔軟な頭を持ち続けたいな。